シンポジウム2A1の続き。
予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「過去1億年にみられる海洋と微化石の相互作用」
○西 弘嗣(九州大学大学院比較社会文化研究院)
過去1億年をみると,地球の気候は白亜紀の温室から第四紀の氷室へと明瞭に変化している.その変換点は約5000万年前(初期/中期始新世境界)で,約3400万年前(始新世/漸新世境界)になると南極大陸で氷床が拡大し始めた.第三紀以降の海洋生物は,基本的には地球規模で寒冷化する気候変動に追従し変化してきたといえる.しかし,その一方で二酸化炭素を吸収する機能をもつ生物ポンプ自体が,寒冷化をさらに促進させる機能を果たしてきた.たとえば,漸新世以降に生じた南極氷床の拡大は,オーストラリア大陸の移動により南極が熱的に孤立したためと説明されるが,周囲に生じた湧昇帯により生物ポンプが強化されたことも大きな要因と解釈される.また,北太平洋の生物ポンプも,南極氷床が再び拡大した中期中新世以降に強くなり,北極氷床が拡大する環境を助長したと考えられる.このように,生物と海洋は互いに強い影響を及ぼしあっている.- 「始新世末の陸上性哺乳類化石相の変遷について」
○ 高井正成・鍔本武久(京都大・霊長研)・江木直子(京都大・理学部)
第三紀始新世末の陸上性哺乳類相の変遷に関して、アジア大陸の霊長類相を中心に概説する。始新世末期の世界的な気温の低下は、海洋生物だけでなく陸上の哺乳類相も大きく変化させた。始新世前半まで栄えていた「古代型」の哺乳類が始新世末までに衰退していく一方で、始新世から漸新世にかけてより現代的な哺乳類の系統が急速に放散した。大型草食獣としては、原始的な有蹄類が奇蹄類や偶蹄類といった新しい有蹄類に置き換わった。小型草食獣では原始的な多丘歯類が齧歯類やウサギ類などに取って代わられた。霊長類では、始新世に栄えたアダピス類やオモミス類といった原始的な霊長類が始新世末〜漸新世にかけて衰退し、逆に新世界ザル・旧世界ザル・類人猿などを含む真猿類が急激に進化した。こういった霊長類を含む陸棲哺乳類相の変遷は、始新世後半の気温の低下による植生の変化や大陸移動による大陸間の連結・隔離に影響を受けて生じたものと考えられる。- 「氷期―間氷期サイクルとそれが日本海の浅海貝類相に及ぼす影響:生態学的・進化学的検討」
○北村晃寿(静岡大学生物地球環境科学科)
第四紀を特徴づける気候変動である氷期―間氷期サイクルは270万年前から顕著になり,60万年前に4.1万年周期の卓越する小振幅のパターン(海水準の変動量は最大70m)から10万年周期の卓越する大振幅のパターン(海水準の変動量は最大130m)へと移行した.化石記録からの検討によると,氷期―間氷期サイクルは個体群の移入・分断・孤立化を引き起こすが,その期間は種の分化には短すぎて,遺伝子レベルの変異に留まると言う.この傾向は日本海の貝化石記録にも見られ,100万年前までの日本海浅海に生息していた50種以上の固有種のほとんどは270万年前以前に出現したのである.ところで日本海には170万年前(酸素同位体ステージ59)から対馬海流が間氷期ごとに流入するようになった.これは地殻変動に伴う対馬海峡の出現―日本列島とアジア大陸との陸橋の消滅―によるもので,日本列島の陸上生物の進化に影響を与えたであろう.