種別 ワークショップ 提案者 矢原徹一(九大理生物)tyahascb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp 趣旨 テーマを特定せずに公募したワークショップです。発表者の方には、次の発表の司会をお願いします。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 海産緑藻類にみられる配偶子の特異的な行動と異型配偶子接合の進化について
富樫辰也(千葉大学海洋バイオシステム研究センター)
多くの海産緑藻類の雌雄の配偶子は、同型もしくはわずかな異型で、雌雄ともに眼点と呼ばれる光受容器官を持っており、海中に放出されるとただちに正の走光性を示して海面直下に集合して接合する。しかし、我々は、雌雄の配偶子の異型の度合いが大きいハネモの仲間では、雄性配偶子は小型で光受容器官を持っていないことに気が付いた。「このような雄性配偶子が正の走光性を示す雌性配偶子と効率的に遭遇できるのだろうか?」という点に疑問を持って詳しく実験した結果、海産緑藻類では初めての性フェロモンの発見に成功した。本研究では、実験データに基づいて計算機による3次元の行動シュミレーションプログラムを構築し、配偶子が示す行動の意味と異型性の進化の関係を探る研究を行った。これによって、配偶子の行動が雌雄で分化した場合にも、それを補う性フェロモンの存在があれば、接合子形成率は高い水準に維持され得るだろうとの結果を得た。これらの結果を基に、異型配偶の進化を生息場所と関連付けながら議論する。- ショウジョウバエ卵殻形態の進化的多様性を生み出すEGFRシグナル伝達経路の種特異的な活性化様式
中村征史、松野健治 (東京理科大・基礎工・生物工)
動物のボディプランの進化が、発生を制御するホメオティック遺伝子などの発現パターンの多様化に由来することが知られている。しかし、形態進化とシグナル伝達経路の多様化の関係を、分子レベルで明らかにできた例は、ほとんどない。本研究では、多様な発生過程を制御する上皮増殖因子受容体 (EGFR) が、ショウジョウバエ卵形成過程において種固有の活性化パターンを示し、これが、ショウジョウバエ卵殻形態の進化的多様性を生み出す要因となっている可能性について報告する。また、EGFRシグナル伝達経路の種特異的な活性化パターンを引き起こす分子機構において、この経路を構成する遺伝子のエンハンサー機能や、そのエンハンサーを制御する位置情報の場の意義に関しても考察する。- イチモンジセセリにおける体サイズ・卵サイズの表現型可塑性に関する量的遺伝学的解析
世古智一(近中四農研)・中筋房夫(岡山大農)
表現型可塑性がどのように進化していくのかを明らかにする事は,生物の生活史進化を解明していく上で重要である.本研究ではイチモンジセセリParnara guttata guttataを材料に,量的遺伝学的手法(全きょうだい分析)から体サイズおよび卵サイズの表現型可塑性に関する遺伝的背景を明らかにする事を目的とした.本種は秋に移動を行う第2世代において,他の世代よりも体サイズや卵サイズを大きくするが,これらの形質の反応基準(日長反応)はファミリー間で異なっていた.これは本種の個体群内において,体サイズや卵サイズの表現型可塑性にかなりの遺伝的変異が維持されている事を示唆している.越冬可能でかつ移動が見られる地域では,移動個体と非移動個体が混在するものと考えられる.このような条件下では個体群内において多様な反応パターンが維持され,そのため表現型可塑性における変異が見られるものと推察される.- 重複遺伝子の進化機構
牧野 能士 , 鈴木 善幸 , 五條掘 孝(遺伝研・生命情報・DDBJセンター)
遺伝子重複はその産物の非対称な進化により新しい機能を持つ遺伝子を産生すると言われており、重複遺伝子の進化機構を研究することは興味深い。我々は酵母における重複遺伝子の進化機構の解明を目的として分子進化と機能分化の両面から解析を行った。酵母の遺伝子の一つ一つをその欠失株の適応度から可欠、不可欠に分類すると、比較した重複遺伝子ペアのうち両方とも不可欠なものは殆どなく、可欠・不可欠ペアもしくは可欠・可欠ペアであった。また共有相互作用蛋白質、共有機能を持たない重複遺伝子ペアでは進化速度比が大きく、とりわけ不可欠・可欠ペアの方が可欠・可欠ペアよりも進化速度比が大きいことが示された。可欠・不可欠ペアにおいては可欠遺伝子の進化速度が速く発現量が低かったのに対し、可欠・可欠ペアでは可欠・不可欠ペアほどの違いは見られなかった。以上のことから、重複遺伝子の非対称な進化は可欠・不可欠ペアに特異的だと考えられた。- SINE法によって明らかとなったヒゲ鯨類の系統関係と過去の急速な種分化
二階堂雅人(統数研・東工大院生命)、牧野瞳(東工大院生命)、後藤睦夫(日鯨研)、上田真久(日鯨研)、Pastene Luis(日鯨研), 曹纓(統数研), 長谷川政美(統数研)、岡田典弘(東工大院生命)
現生のヒゲ鯨亜目は一般に大型な鯨類12種から構成されており、特に地球上最大の哺乳類として知られているシロナガスクジラを包含するグループである。ヒゲ鯨類に関しては、過去いくつかの系統学的な研究がなされているにもかかわらず、その明確な結論は得られていない。そこで本研究において、SINE法を用いたヒゲ鯨全12種の系統解析をおこなった結果、ザトウクジラとナガスクジラの単系統性をはじめとするいくつかの新規の系統関係が明らかにされた。さらに興味深い事に、構築された系統樹上のある位置において互いに矛盾する様なSINE挿入パターンが検出され、これは一般的に知られている祖先多型現象によるものである事が予想された。つまりヒゲクジラ類の進化過程のある時期に、急激な放散が起きたことが強く示唆された事になる。これは過去の海洋環境における鯨類の進化を見るうえでも非常に興味深い結果であるといえよう。- 多次元ベクトル空間表示法を用いた種間のBiasの評価
-- 哺乳類の系統樹作成への応用 --
岡林喬久、北添康弘、渡部輝明、奥原義保、栗原幸夫(高知医科大学医学情報センター)、吾妻健(高知医科大学医学部看護学科)、富永明(高知医科大学医学部医学科)、鈴木智彦(高知大学理学部生物学科)、岸野洋久(東京大学大学院農学部生命科学研究科)
哺乳類の間の系統関係は、現在尚議論中の重要な課題の一つである。その大きな原因としてhomoplasy などによる遺伝子配列間の偏り(bias)がある。この偏りを取り除く方法として、多くの蛋白質を結合することが考えられるが、その場合偏りがどれだけ無くなったのか明確でない。遺伝子データを用いて系統樹推定を行う場合、biasができるだけ少ないデータを用いるのが望ましい。そこで、我々は多次元ベクトル空間表現法a)を用いて種間のbiasを評価し、更に和則(additivity rule)が成り立つようにInput data を補正する新しい方法を提案した。今回、6種類の遺伝子データ(brca1, complete mitochondrial, α-hemoglobin, β-hemoglobin, cytochrome b, Springer's data)からbiasの小さい3つのデータを選択して分子系統樹の推定を行った。その結果、互いに矛盾しない一貫した系統樹を得ることができた。
a) Kitazoe, Y. et al. A New Theory of Phylogeny Inference Through Construction of Multidimensional Vector Space. Mol. Biol. Evol. 18, 812-828 (2001).- 哺乳類における現代目(modern orders) の放散は6500万年より以前か以後か?
北添康弘、渡部輝明、岡林喬久、奥原義保、栗原幸夫(高知医科大学医学情報センター)、吾妻健(高知医科大学医学部看護学科)、富永明(高知医科大学医学部医学科)、鈴木智彦(高知大学理学部生物学科)、岸野洋久(東京大学大学院農学部生命科学研究科)
哺乳類が、いつ、どのように進化したのかについて現在なお議論中である。1点目は分子解析による年代推定では、多くのmodern orders が6500万年よりずっと以前に分岐したということ。2点目は食虫目が実は単系統でなく多系統であるということであり、これらは従来の形態学及び古生物学の研究結果と真正面から対立している。本研究では、まず多次元ベクトル空間表示法a)を用いて、biasの小さい3種類の遺伝子データから統一的なtopology を作成し、食虫目が多系統でなく"Superordinal Monophyly"であるという提案をした。次に、この提案の上に立って進化の初期段階における分岐点密度と化石データとの比較により、modern orders が6500万年より以後に放散することを報告する。
a) Kitazoe, Y. et al. A New Theory of Phylogeny Inference Through Construction of Multidimensional Vector Space. Mol. Biol. Evol. 18, 812-828 (2001).- HIVの分子進化過程を推定する新しい方法
中島典昭、岡林喬久、北添康弘、渡部輝明、栗原幸夫、奥原義保(高知医科大学・医学情報センター)、岸野洋久(東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部)
HIVなど原核生物の遺伝子配列を使った分子系統樹推定による進化解析はこれまで多くなされてきており、真核生物に比べその置換速度が速くまた平行進化や組換等の為に種間に強い相関があることが知られている。このようなデータの特徴は、現在広く使用されている分子系統樹推定法での系統関係の評価を困難にしている。また1感染患者の時系列データも数多く存在し、その解析からは薬剤の影響や治療の方策への応用が期待されるだけでなく、実際の進化を観測していることから進化を探る手がかりになる可能性がある。今回我々は、多次元ベクトル空間表示法を用いて、塩基配列間の相違数を基に配列間のbiasを評価、抽出、修正すると共に各分岐点での塩基配列を決定しながら分子系統樹推定をおこなう方法を提案する。また、この方法を1感染患者から採取されたHIV-1のenv領域の時系列データに適応し解析を試みた。その結果を報告する。