種別 ワークショップ 提案者 草野好司(九州工業大学大学院生命体工学研究科) 趣旨 ゲノム複製、損傷修復、変異生成は、進化を引き起こす基本機構であると考えられる。それらのメカニズムの解明は進化の素過程を明らかにすることに等しく、ゲノム進化の未来予測を可能にすると考えられる。この狙いを持って、DNA複製、修復・組換え、突然変異誘起機構解明に向けた最前線の研究テーマを紹介する。 4〜5名の講演者を公募する。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「ゲノム配列に潜む生物種の個性に着目したゲノム進化の素過程の研究」
Species-specific genome signatures and evolutionary mechanisms of signature establishments
阿部貴志(遺伝研、ザナジェン)、金谷重彦(奈良先端大)、木ノ内誠 (山形大)、上月登喜男、中川智(ザナジェン)、小坂洋子、池村淑道(遺伝研)
Takashi Abe (NIG, Xanagen), Shigehiko Kanaya (NAIST), Makoto Kinouchi (Yamagata Univ.), Tokio Kozuki, Satoshi Nakagawa (Xanagen), Yoko Kosaka, Toshimichi Ikemura (NIG)大量なゲノム配列の解読は、進化の素過程であるゲノムDNAの損傷修復や変異、ゲノム複製の研究にも大きな影響を与えている。大量に蓄積した配列情報の全体を活用した研究には、新たな視点での情報学ならびに実験的な研究法の確立やその融合が重要になる。この視点に立って、我々のグループは自己組織化地図法(SOM)を開発している。コホネンが記憶やその想起・連想の機構を研究するために開発したSOMに、ゲノム解析用の改良を加えたところ、予想を遥かに超える有効性が示された。多様な生物種の10kb程度の断片配列だけが与えられたのでは、どの生物の配列なのかを識別することは不可能に思える。しかし、各ゲノムにはオリゴヌクレオチド頻度に関する個性が内在しており、その個性をSOMが識別して、一切の付加情報なしに生物種ごとに分類が可能であった。このゲノム個性の実体はゲノム進化の素過程について、基本的な知識を提供している。- 「ショウジョウバエの減数分裂組換えに必須なrec遺伝子はMCM関連タンパクをコードしている。」
REC, a new member of MCM related protein family is required for meiotic recombination in Drosophila松林 宏、山本雅敏 (京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター)
Hiroshi Matsubayashi and Masa-Toshi Yamamoto (Drosophila Genetic Resource Center, Kyoto Institute of Technology)キイロショウジョウバエのrec突然変異では雌での減数分裂組換えが野生型の5%以下に低下する。我々はrec遺伝子がMCMタンパク質と高い相同性を持つ分子をコードすることを見いだした。MCMはMCM2からMCM7まで互いに似通った6つの分子からなり、DNA複製に必須の役割をはたしている。分子中央にはDNA依存性ATPaseモチーフが存在し、ヘテロヘキサマーを形成し、DNAヘリケースとして働くことが推定されている。ショウジョウバエの6つのMCM間ではDNA依存性ATPaseモチーフ内での相同性が55ー65%であるのに対して、RECと他のMCM間では28ー33%の相同性が見られる。酵母では、通常の6つのMCMしか存在しないが、哺乳類ゲノム中にはRECと似通った7番目のMCM関連タンパク質が見いだされた。rec突然変異のX線感受性、およびMMS感受性を調査した結果、rec遺伝子は体細胞でのDNA修復には関与しないことが推定された。rec遺伝子の組換えにおける役割について議論する。- 「ゲノムを安定に維持する制御機構」
Regulation of the maintenance of genome stability in Saccharomyces cerevisiae梅津 桂子、吉田 純平、安島 潤、真木 寿治(奈良先端大・バイオ)
Keiko Umezu, Jumpei Yoshida, Jun Ajima, Hisaji Maki (Grad. Schl. of Biol. Sci,. NAIST)我々は出芽酵母二倍体細胞で生じる様々な遺伝的変化を分子レベルで解析する系を開発し、染色体異常や点突然変異の発生に関わる因子について解析を進 めている。これ迄に、相同組換え機構はDNA複製の阻害や染色体の崩壊を回避 することでゲノムの安定な維持に大きな役割を果たすと同時に、染色体異常・ 再編の発生にも必須の働きをすること、および、その過程は複数の段階でゲノムの変化を抑える様に制御されることが明らかとなった。損傷乗り越えDNA 合 成を始めとする複製後修復機構も相同組換え機構と補完し合いながらゲノムの 安定性に寄与しているが、一方が他方の代替経路として作用した場合には特定 の遺伝的変化の上昇が認められ、機構間を使い分ける制御の存在が示唆され る。非相同組換えは自然DNA傷害の回避にも遺伝的変化の発生にも影響が認められなかった。これらゲノム維持に関わる経路群の関係や制御因子について解 析中の結果も合わせて議論したい。- 「染色体切断修復機構とRecQヘリカーゼファミリーの共進化」
Evolutionary relationship between chromosome break repairs and RECQ helicase family proteins草野好司(九工大・院・生命体工学)
Kohji Kusano(Life Sci. & Sys. Engi., Kyushu Insti. Tech.)RECQヘリカーゼ蛋白は、古細菌、真正細菌から真核生物に至るまで生物全体にわたって保存されている。このファミリーの分子進化系統樹 は、RECQ蛋白が生物進化に伴って多重化、多様化したことを示す(RECQファミリー蛋白の進化)。一方、生物は生体内活性酸素や放射線によるDNA切断に対応するために、染色体切断修復機構を進化させてきたと考えられる。染色体切断は主に3つの経路、交叉を伴う遺伝子変換、交叉なしの遺伝子変換、末端再結合によって修復されるが、各経路の使用頻度が生物種間で異なっている。これは経路を選ぶ制御メカニズムが生物進化の過程で変化してきたことを示唆する(染色体切断修復機構の進化)。これまでに大腸菌、出芽酵母、ショウジョウバエのRECQ産物が経路選択を制御していることが示唆された。そこで、染色体切断修復機構とRECQファミリー蛋白の共進化の可能性を考察する。- 「哺乳動物ゲノムにおける酸化損傷とその防御機構の生物学的意義」
Biological Significance of the Defense Mechanisms against Oxidative Damage in Mammalian Genomes中別府雄作(九州大学生体防御医学研究所)
Yusaku Nakabeppu生物にとって,その遺伝情報を担うゲノムDNAを細胞から細胞へ,親から子へと正確に伝え維持することは最も基本的な生物学的機能であるが,ゲノムDNAやその前駆体であるヌクレオチドは,ミトコンドリアにおける酸素呼吸の過程で必然的に発生する活性酸素によって酸化される危険に常に曝されている。我々は,DNAの酸化損傷の中でもプリン塩基の酸化体,8−オキソグアニン(8-oxoG)と2−ヒドロキシアデニン(2-OH-A)による哺乳動物における細胞障害とその防御機構の解明を目指している。本ワークショップでは,酸化プリンヌクレオシド三リン酸(8-oxo-dGTPや2-OH-dATP,2-OH-ATP)を分解する酵素(MTH1),シトシンに対合した8-oxoGの除去修復 を開始する8-oxoGDNAグリコシラーゼ(OGG1),複製の際に鋳型DNA中に存在する8-oxoGに誤って対合したアデニン,あるいは複製の際に誤ってDNA中に取り込まれた2-OH-Aの除去修復を開始するアデニン/2-OH-A DNAグリコシラーゼMUTYH)の個体レベルでの機能について紹介する.