種別 ワークショップ 提案者 長谷部光泰(基礎生物学研究所)
倉谷滋(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター [理研CDB])趣旨 発生と進化を結び付けた研究はモデル生物での詳細な発生機構の解明と非モデル生物を用いた広範な知見の蓄積に伴い急速に進展している。そんな中で本分野が生み出した新たなコンセプトとは何か、今後解決すべき問題点は何かについて、異なった研究材料を用いて異なったコンセプトで発生進化・進化発生研究をすすめている5人の演者に提言してもらうことによりブレインストーミングするワークショップとしたい。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「多検体遺伝子発現解析による器官特異的遺伝子の探索: 内柱・甲状腺の起源と進化の理解をめざして」
○小笠原 道生(千葉大学 理学部 生物学科)
ポストゲノム時代を迎え、網羅的解析が常套の時代を迎えている。EvoDevoの研究分 野においても従来の一本釣り的な遺伝子単離・解析だけではなく、投網的な遺伝子単 離・解析による包括的な研究が求められている。遺伝子配列の進化そのものはゲノム プロジェクトおよびESTプロジェクトから知見が得られるが、研究対象の機能や形態 の進化の理解は関連遺伝子の発現がその根幹にある。我々は新しい多検体遺伝子発現 解析手法を利用して、脊索動物の器官の進化を理解すべく遺伝子の探索を続けている。 今回は、内柱・甲状腺の起源と進化の理解をめざして我々が行ってきた取り組みと現 状を紹介したい。- 「葉形制御遺伝子と葉における表現型可塑性−−形態進化の理解に向けて」
○塚谷裕一(基礎生物学研究所・統合バイオサイエンスセンター)
葉は光合成の場であるため、光や乾燥など、環境要素による形態の制約を大きく受 ける。 その結果として葉形は多様性が高く、適応的な小進化を考える上で好適であ る。近年、 シロイヌナズナを用いた発生・分子遺伝学的解析から、葉形を司る遺伝子 群が明らかに なり始めた。例えば私たちの研究室では、縦の長さを制御するROT3, ROT4、あるいは横 の長さを制御するAN, AN3 などをクローニングし、解析している が、葉形は決して安定 な形質ではない。環境の変化に基づく葉形やサイズの可塑性は きわめて著しい。その反面、 葉形態形成には、補償作用という奇妙なホメオスタシス があるように見える。これは例 えば細胞分裂活性の低下が起きた際、個々の細胞のサ イズの増大によって、全体の葉面積 の低下を最低限にくい止めているかのように見え る現象である。葉形態の適応進化は、 これら可塑性の制御系に依存した面が大きいの ではないか。本講演ではその点について 議論したい。- 「平行進化と収斂進化の分子機構」
○長谷部光泰(基礎生物学研究所)
後生動物の複眼、単眼、穴眼は相似な器官である。しかし、眼形成の遺伝子系は相同 であることがわかってきた。このことは、自然選択の力を借りれば、生物は異時性と 異所性という手法を用いて、相同な遺伝子で相似な器官形成を作り上げることができ るという例である。植物の葉は後生動物の眼のようにいろいろな系統で平行的に進化 してきた。この場合も、同じロジックで平行進化あるいは収斂進化を語ることができ るのだろうか。- 「ハエとクモの比較胚発生学」
○秋山-小田 康子1,2、山崎 一憲2、小田 広樹2 (1. 科技団・さきがけ、2. JT生命誌研究館)
モデル生物の情報をもとにした比較発生学的解析で問題となるのは、注目している形質や現象が比較可 能なものであるのかという点である。このことを考えると門を越えた比較は現在のところ非常に困難であり、 それぞれの動物門で祖先的な形質を理解する試みが必要である。このことを踏まえて、私達は鋏角類・ オオヒメグモの分子発生学的解析を行っている。クモはショウジョウバエと同じ節足動物であり、 鋏角類は節足動物の中で昆虫とはおそらく系統的に離れている。両者は胚発生の様式に明らかな 違いが見られるが、体の多くの部分に関して分子レベルで対応がつき、発生現象の比較が可能であ ると考えられる。今回は私達が現在行っているクモの体軸形成の研究を紹介する。- 「相同性と発生拘束から見た形態の進化」
○倉谷 滋(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター)
進化の過程で成立した発生拘束が、形態的相同性を生み出すのであれば、進化的新規 形態は、相同性を突き崩すことで成立している可能性がある。そのような進化パター ンの例として、脊椎動物の顎と、カメの甲の進化を、非相同的発生プログラムの進化 として解釈する。