種別 シンポジウム 提案者 浅見崇比呂(信州大)、松隈明彦(九州大) 趣旨 体軸の左右極性および左右非対称な形態の分子機構、適応進化機構、 系統に特異なねじれ構造の地史的進化、左右対称な形質における左右反転進化、遺伝システムの多様性にみる、生物の形態進化における左右非対称性にユニークな進化・遺伝・生態・古生物学の現在を鳥瞰し、学際領域ならではの進化学の特質を摘出する。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 18:00-18:05
「趣旨説明」- 18:05-18:30
「脊椎動物にみられる左右非対称性とその決定機構」
横山尚彦 (京都府立医科大学)
コメンテータ:倉谷 滋(理化学研究所)
我々脊椎動物の体制の特徴として、頭尾・背腹に関して明確な非対称性が存在するとともに、左右対称であることがあげられる。しかしながら、内部臓器をみたとき、ほぼすべての器官において左右非対称性が存在することがわかる。この左右非対称性の形成過程に関して、最近10年間で非常に多くのことが解明されてきた。本シンポジウムにおいては、
1.脊椎動物の内部臓器にみられる左右非対称性とその形成過程、
2.左右非対称性決定の遺伝的制御
3.繊毛運動による左右対称性から非対称性の形成
を紹介する。脊椎動物と無脊椎動物における左右非対称性決定に類似性が存在するのか、もし存在 するとしたらその共通点は何か?本シンポジウムを通じてこれらの手がかりが得られ ることを期待する。
- 18:30-18:55
「水生動物の左右性の動態と進化」
堀道雄(京都大)
コメンテータ:松田裕之(東京大学)
タンガニイカ湖産鱗食魚での右利きと左利きの発見に始まる左右性研究の現在の到達点を紹介する.左右性は全ての魚類に備わった遺伝形質であり,個体ごとに摂食や防衛に関して得意な体側がある.さまざまな水系の魚類群集において,各魚種の左右性の比率は0.5を中心に0.3〜0.7の間を数年周期で振動している.これは,捕食-被食関係における頻度依存淘汰によって,集団中の遺伝子頻度が変化するためと考えられる.また魚食魚の一方の利きの個体は逆の利きの魚を多く捕食しているが,数理モデルによる検討によると,この「交差捕食」は,捕食者と被食者の系を動的に維持する.さらに最近の研究で,魚類の左右性と同じ現象が甲殻類や頭足類にも見られ,その頻度の振動や交差捕食が明らかとなりつつある.これらの現象を紹介し,水生動物の群集における左右性の動態とその生成メカニズム,さらに水生動物の進化史における左右性の意味を考える.- 18:55-19:15
「ガムシ幼生大顎非対称構造と右巻貝捕食行動の効率との関係」
猪田利夫(希少水生昆虫研究会/東大・総合文化・生命環境)、平田善之(希少水生昆虫 研究会)、上村慎治(東大・総合文化・生命環境)
コメンテータ:長谷川英祐(北海道大学)
ほとんどすべての左右相称性動物に、構造的、あるいは機能的な非対称性が存在す る。多くの具体的なケースが知られているものの、その進化的な意味、あるいは、 生態学的な意義が明確に示された例は少ない。また、我々の知る範囲では、実験的に 証明された事例はない。ここでは新しい実証例を紹介する。淡水性巻貝には、 サイズや形状の良く似た右巻きのモノアラガイと左巻きのサカマキガイがあり、捕食者 との種間相互作用について比較しやすいと言う特徴がある。このキラリティの異な る2種の巻貝を用い、その捕食者であるガムシ幼虫の捕食行動の違いを簡単な実験を 行い、検討した。その結果、ガムシ幼 虫の非対称性な大顎は、主食とする右巻貝の 摂食に効率良い構造であることを証明することができた。これは、幼虫の大顎非対 称性構造は、自然界に圧倒的に多い右巻貝 を効率良く捕食するために、種間相互作 用によって進化した結果と考えられる。- 19:15-19:35
「二枚貝貝殻における逆転について」
松隈明彦(九州大学総合研究博物館)
コメンテータ:小笠原憲四郎(筑波大学)
二枚貝は基本的には左右相称の体制を持った軟体動物であり、こう歯の逆転を除き 非対称性の研究は少ない。異歯亜綱二枚貝におけるこう歯の逆転について整理する と、(1) 逆転は主として原始的異歯亜綱にみられる、(2) 異歯亜綱こう歯は前方要素 (前側歯と主歯)および後方要素(後側歯)からなり、両要素が逆転、どちらか一方 の要素だけが逆転、両要素とも正常の4つの状態がある、(3) 逆転の頻度は多くの分 類群で0.3〜0.5%程度と極めて低いことなどが明らかになった。また、固着性異歯亜 綱では、固着殻とこう歯でばらばらに逆転が起こっている例が見つかっている。これ らのことは、左右非対称な腹足類では、全逆転個体のみが生存可能であるのに対し、 左右対称な二枚貝では、部分逆転個体の生存も可能であることによると考えられる。 腹足綱の全逆転が生殖的隔離へと結びつく可能性があるのに対して、二枚貝綱の部分 逆転は多様性の増大に寄与していると考えられる。- 19:35-19:55
「巻貝の鏡像体は発生拘束されているか」
浅見崇比呂(信州大学理学部生物科学科)、関啓一(東邦大学理学部生物科学科)
コメンテータ:倉谷 滋(理化学研究所)
動物の内臓は普遍的に左右非対称である。その左右極性は、多くの動物門で共通に維持されている。なぜ鏡像体は進化しないのか−発生拘束(安定化淘汰)仮説は、「左右軸を逆にすると正常な形がつくれないから」と答える。しかし、この発生拘束仮説には、これまで実験的証拠がなく、逆に否定した研究もほとんど例がない。発生拘束の検出それ自体が技術的に不可能に近いからである。巻貝のうち、有肺類(カタツムリ・ナメクジ)では、個体発生の左右極性が、母親の単一座位の遺伝子型(母性効果)により決定され、しかも雌雄同体である。この2点の特徴がゆえ、両親の核ゲノムを共有しながら、右型に成長する個体と左型に成長する個体を、単純な交配により作成できる。もしこれら左右二型が鏡像対称に成長しなければ、それは発生拘束を示す。 本講演では、これまでの実験結果を報告し、この発生拘束の進化学的な意味について議論する。- 19:55-20:00
「まとめ」