種別 ワークショップ 提案者 岡田典弘(東工大)
河田雅圭(東北大)趣旨 生物の種が多様化してきたメカニズムを探る研究は、進化生物学の中で最も主要なテーマである。生物の多様性を促進する種分化に関する研究は古くから行われてきた が、特に近年、種分化に関する多くの研究が発表され、注目されるようになった。それは、種分化に関する理論の進展がみられたこと、多くの種分化には生態学的要因が関与していることが示されたことなどの他に、特に、分子レベルから生殖隔離に関わる遺伝子の研究が進められていることなどが主な理由である。本ワークショップは昨年度のシンポジウム「種分化:分子から生態へ」に引き続いて、特に、分子生物学、分子発生学における種分化のメカニズムの解明、あるいは分子レベルの研究と生態学的研究を結びつけるような研究をとりあげる。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「シクリッドの形態的多様化の分子メカニズム」
渡邉正勝(東工大)、雉本禎哉(東工大)、小林直樹(東工大)、藤村衡至(東工大)、村上安則(理研)、中澤真澄(理研・遺伝研)、倉谷滋(理研)、五條堀孝(遺伝研)、藤山秋佐夫(情報研)、小原雄治(遺伝研)、岡田典弘(東工大)爆発的な種分化を起こしたアフリカ、ヴィクトリア湖産シクリッドは互いにほぼ同一な遺伝子構造を有している。しかしながら、形態的・生態的には非常に多様化しており、その分子メカニズムに興味が持たれる。シクリッドの形態的特徴として顎部形態の多様化があげられる。シクリッドの「種」を論じるうえで顎部形態は重要な位置にあり、また、種の形成にも大きな役割を持つと考えられている。我々は、シクリッド顎部の多様な形態に着目し、その分子メカニズムの解明を目指している。種を特徴付ける骨格が形成される発生初期〜採餌開始期における遺伝子発現を、DNAチップ、in situ ハイブリダイゼーション、定量PCRにより検出し、種間比較解析を進めている。本大会では、EST解析の結果を含めて現在までの経過を報告する。- 「交配後隔離に関わる遺伝子の有害性と種分化」
河田雅圭(東北大・生命科学)、林岳彦(Univ.Tennessee)
交配後隔離にどのような遺伝子が何個くらい関わっているのかという問題は、Drosophilaなどで研究され、解明されつつある。多くの場合、複数の遺伝子座間の相互作用(エピスターシス)によって、雑種個体の適応度が低下すると考えられている。しかし、適応度を低下させるような遺伝子の組み合わせが同じ種のなかでどの程度生じているのかはよくわかっていない。交配後隔離の種分化モデルの多くは、同じ集団内では、適応度を低下されるような遺伝子の組み合わせは生じていないと仮定しているが、この仮定は必ずしも当てはまるわけではない。そこで、本発表では、集団間の交配で雑種の適応度を低下させるような遺伝子の組み合わせは、同じ集団内でも生じる可能性があると考えた交配後隔離のモデルを紹介する.- 「ショウジョバエにおける求愛歌の役割と性的隔離」
都丸雅敏(京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター)
ショウジョバエの配偶行動においては、視覚、聴覚、化学感覚(嗅覚や味覚)などの様々な感覚を用いて、雌雄はコミュニケーションしている。なかでも、雄の翅の振動により発せられる求愛歌は交尾の成立に重要であり、性的隔離に大きな役割を果たしていると考えられている。1962年に報告されて以来、多くの種で求愛歌が記載され、種特異的なパラメータが探索された。パルスとパルスの時間間隔(パルス間間隔:IPI)が種特異的であるケースがしばしば観察され、最も重要と考えられるようになった。例えば、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)ではIPIは約34ミリ秒であるが、近縁種のオナジショウジョウバエ(D. simulans)では約55ミリ秒である。人工的に合成した求愛歌を用いた実験により、同種のIPI のときに最も交尾率が高くなることが明らかにされている。ここでは、求愛歌の役割と性的隔離に関する研究を紹介し、私たちの研究を併せて報告する。- 「アナナスシュジョウバエ類における種分化遺伝子を探して」
澤村京一、山田博万、小熊 譲(筑波大)、松田宗男(杏林大)アナナスショウジョウバエ(Drosophila ananassae)とパリド ーサショウジョウバエ(D. pallidosa)はアナナスショウジョウバエ類に属する近縁 な2種で、南太平洋の島々において同所的に生息しているにもかかわらず、交配後隔 離が存在しない。しかしながら交配前隔離については強い性的隔離が確認されてい る。他に顕著な隔離が確認できないことを考慮すると、性的隔離の確立がこの2種の 種形成に深く関わっていたのではないかと考えられる。この性的隔離を支配する遺伝 子の同定を目指すことは、種形成遺伝子を探すことに通じるのではないかと考えている。
この2種間で染色体を置換した雌を作製し交配実験を行ったところ、雌の種識別は 第2染色体のごく狭い特定領域による支配が確認された。現在、この領域について単 為生殖系統を利用した種間モザイクゲノムの作製とX線照射による欠失染色体作製の 方法で同定することを試みているので、途中経過を紹介したい。