種別 ワークショップ 提案者 ○本多元(長岡技術科学大学) 趣旨 全生物共通の祖先(LUCA)は進化系統樹の根でありますが、この'根'が、いわゆる生命の起源とどのような関係にあるかについて議論に足る具体的な事実はあるのか? 実験的なアプローチができないか、実験科学として成立するか? そんなことを議論したい。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 『 生命の起源に関する[GADV]-タンパク質ワールド仮説と[GADV]-ペプチドによる触媒活 性』
○池原健二(奈良女大)
生命の起源に関する我々独自の[GADV]-タンパク質ワールド仮説の実験的証拠を得る ため、グリシン、アラニン、アスパラギン酸およびバリンの混合液を繰り返し蒸発乾 涸させた。得られた[GADV]-ペプチドの触媒活性を調べたところ、ペプチド結合やホ スホジエステル結合を加水分解する活性の存在することが分かった。これらの結果に 基づいて、全生物共通の祖先に対する実験的なアプローチが可能かどうかを考察す る。- 「生命誕生以前にアミノ酸重合による自然選択がなされた」
○本多元(長岡技術科学大学・生物系)
原始地球で最初に生命が誕生したのは海底の熱水噴出孔付近であると言う考え方があ る。この環境を実験室に再現した。反応溶液は、230℃、23Mpaの環境から0℃、1Mpaの 環境へと連続的に循環する。常温常圧部分からサンプリングして、HPLCにより反応性 生物を同定した。代表的な四つのアミノ酸Gly, Ala, Val, Aspの混合物を反応させる と数十種類の生成物が得られる。これらの種類と生成量はわずかな反応条件の違いで 大きく変化したが、生成物群のHPLC溶出パターンをクラスター分析した結果、反応と ともに類似性の高い少数のグループに分かれて行くことが解った。これは、1)反応過 程で生成物が自律的に選択されており、このレベルで既に淘汰が起こっていること、 また、2)それぞれの生成物群が安定に存在することから、独立して生命体を形成す る源となった可能性を示している。- 「進化系統樹をもとにした高度好熱菌Thermus thermophilus 3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(IPMDH)の祖先型化とその耐熱性」
○渡辺敬子、横堀伸一、山岸明彦(東薬大・生命科学)
全生物の進化系統樹をみると、至適生育温度が80℃以上の生物がその根元に多く存在していることから、生物の共通の祖先は超好熱菌ではないかという仮説が提唱されている。この事を実験的に検証する手法として、進化系統樹を基に、ある酵素の共通の祖先のアミノ酸配列を推定し、その祖先型アミノ酸の効果を調べるということを以前考案した(1)。本研究では、高度好熱性の真正細菌Thermus thermophilus由来の酵素3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素 (IPMDH)について進化系統樹を作製し、祖先型アミノ酸配列を推定した。推定された祖先型アミノ酸残基を部位特異的変異法により導入して変異型酵素遺伝子を作成し、大腸菌中で発現、精製した。祖先型変異酵素の耐熱性および活性の温度依存性を調べた。 (1)Miyazaki, J, et al. (2001) J. Biochem . 129, 777-782- 「物質の進化系統樹から共通祖先を考える」
○飯田一浩(総合研究大学院大学 教育研究交流センター)
進化系統樹の根について「物質の進化系統樹」の立場で考察する.「物質の進化系統樹」は,生物に至る物質進化の歴史を調べる方法の一つである.細胞が出現する前の進化は,歴史決定の根拠となる化石が無いため,実験を積み重ねて推察する他はなかった.「物質の進化系統樹」では,生物の属性群が出現した順序として進化の歴史を決定する.この方法は,任意の属性群が順に出現する際,属性どうしの配置に特異的な順序でしか出現しえないという事実のみに基づいている.そのため,化石がなくても決定論的な系統樹が得られるという特長がある.この方法による系統樹の作り方,実験への利用方法についても述べる.