種別 ワークショップ 提案者 宮崎健太郎(産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門) 趣旨 生物進化の基本アルゴリズム―変異と選択―を利用した分子の機能改変技術(進化分子工学)が盛んである。本分野は、変異PCR・DNAシャフリング・ファージディスプレイ等の遺伝子工学技術やハイスループットスクリーニング等の技術開発により発展し、今や産業として成り立ちつつある。一方で「進化」という名を冠してはいるものの、実際には割と素朴な変異・選択を繰り返しているにすぎないことも事実である。本ワークショップでは、進化分子工学が実際にどのように産業利用されているかについて紹介するとともに、再度「進化」の原点に立ち返り、進化のもつさまざまな側面をいかに工学として利用するか・できるかについて考えてみたい。とくに、変異バイアスと進化速度の関係、非定方向進化(中立進化)の利用可能性についての演題を取り入れたい。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「大腸菌DNA polymerase I の構造と機能:活性中心Motif Aへのランダム変異の導入」
○新海暁男(理化学研究所、播磨研究所)Iの活性中心には、13アミノ酸残基から成る保存配列;Motif Aが存在する。Motif Aの性質及び機能を調べるために、本Motifにランダムに変異が導入されたPol Iを多数取得し、性質を解析した。活性型変異Pol Iの配列を解析した結果、D705以外の残基は全て変異可能であり、E710 はDにのみ置換されていた。すなわち、Motif Aは基本骨格さえ保持していれば配列は限定されないことが分かった。一方、I709F, M, N, A変異Pol IはRNAを効率良く合成し、これらの変異体によるDNA複製忠実度も低下していた。従って、I709は基質ヌクレオチドの識別に関与していることが分 かった。Pol IはColE1型プラスミドの複製を司るので、I709変異体を発現させた大腸菌に、ターゲット遺伝子を運ぶプラスミドを導入し培養するだけで、ランダ ム変異遺伝子ライブラリーを作製できる可能性がある。- アミノ酸置換効果の累積性を利用した進化タンパク質工学
○相田拓洋(独立行政法人産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター)我々は、「アミノ酸置換効果に累積性あるいは独立性が概ね成立する」との作業仮説に基づき、「アミノ酸置換効果の累積性」を有効に利用する進化分子工学手法「変異交配法」を開発した。この方法は次の通りである。(1)野生型配列に点突然変異を導入し、適応度を向上させた部位と変異型残基を複数見いだす。(2)各変異アミノ酸を1つだけ含むDNA断片(変異型断片)と含まない断片(野生型断片)をそれぞれの選択部位について用意し、これらの混合物をオーバーラップ伸長(相同組み替え)によって「多重変異体ライブラリー」を生成する。変異交配法は、変異型断片に“取り込みバイアス”をかけた相同組み替えを行うので、ライブラリーの質が良いことが期待され、選択過程におけるスクリーニング数が比較的少なくて済む。我々は、変異交配法を用いた進化実験の具体例として、プロリルエンドペプチダーゼの耐熱性の向上を目指した。その結果、2次スクリーニング数が200程度で、野生型に比べて2000倍の耐熱化に成功した。- 「蛋白質の加速進化」
○宮崎健太郎(産業技術総合研究所・生物機能工学研究部門)
蛋白質の定方向進化では、変異・選択により所望の機能改変を果たす。この過程に伴 う配列変異は大多数が機能改変に有利な「適応変異」である。そこで、適応進化した 蛋白質の配列を解析することで、進化的な分子設計の指針が明らかになると考えられ る。本講演では、好冷菌酵素の耐熱化進化を通じて得られた適応変異の解析から、進 化をいかに「設計」するか、加速進化をいかに実現するかについて考える。