種別 講義 校長 三中信宏(農業環境技術研究所)minaka@affrc.go.jp 趣旨 生物の「かたち」は長年にわたって数値化と定量化をはばんできた。ひとつには,「かたち」の幾何学的特徴を記述するための数学理論が従来の枠組では対応しきれなかったからである.さらに,「かたち」の変量をあつかう統計学は伝統的な線形統計学だけでは足りないからである.もうひとつ,多くの生物学者が「かたち」の数理を論じるだけの数学的素養を育んでこなかったからである.1980年代以降の形態測定学(morphometrics)の方法論の長足の進歩は、生物の「かたち」がようやく数学的・統計学的に扱える見通しを与えた。形態測定理論は多くの研究事例の蓄積により比較形態学・発生生物学・系統学・生態学に用いられるツールとしてその威力を示しつつある。しかし、今も進展し続けるこの分野に入ることは多くの生物学者にとってハードルが高いようだ。今回の「形態測定学・夏の学校」では、できるだけヴィジュアルに――数式ではなく図表により――形態測定学の基本である幾何学と統計学の枠組を与え、そこで用いられるさまざまな数学的方法(アフィン変形のテンソル解析、非アフィン変形の薄板スプライン解析、フーリエ記述子による輪郭曲線解析、形態成長の数理モデリングなど)とその応用についてハンズオン講義をする。ヴィジュアル性を重視するためにコンピュータ・デモンストレーションを中心に講義を進める。また、できれば受講生は各自ノートパソコン(Windows)を持参し、事前にダウンロードした形態測定ソフトウェア(フリー)を用いて講義中に実習することが望ましい。もちろん、聞くだけでも得るものはあるだろうが、手を動かすことによりはじめて体得できることはきっとある。必要な数学的知識はミニマムにするので心配することはないが、高校までの初等幾何学,線形代数(ベクトルと行列)そして初等統計学の知識(ないし関心)があれば言うことなし。 【参加条件】
・事前申込制――開校前に参考情報を流したり質問を受け付けるメーリングリストを開設しますので、参加希望者は「氏名/所属/メールアドレス」を三中信宏(minaka@affrc.go.jp)まで事前にお知らせください。もちろん、大会当日の飛び入り参加も可能です。
「満員御礼」&「空席なし」となりました.どうもありがとうございました.
※「キャンセル待ち」したいという方はお申し出ください.たとえ参加できなくても受講生メーリングリストへの登録はいつでも受付けています.・持参するもの――参加希望者は Windows ノートパソコンを持参してください。事前にインストールしていただきたいフリーソフトウェアは下記の通り:
1)形態測定プログラム。ニューヨーク州立大学のダウンロードサイト:
→形態測定ソフト5つ[tpsTree, tpsRegr, tpsSplin, tpsRelw, tpsPLS]
→ユーティリティソフト1つ[tpsUtil]
→ユーティリティソフト1つ[tpsSuper]
→チュートリアルソフト2つ[tpsTri, tpsPower]
2)統計解析プログラム。CRANのダウンロードサイト]。
→統計言語「R」プログラム(Windows版)をダウンロード。 (インストール方法に関しては、こちらを参照のこと)※なお、学会会場では電源が確保できない可能性がありますので、予備のバッテリーをお忘れなく。
※講義ではビデオプロジェクタを利用しますので、ノートパソコンがなくてもエンジョイできるでしょう。ご心配なく。
予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 三中信宏(農業環境技術研究所)
講義1:形態測定学――その歴史と概論
生物形態学の歴史の中で,比較形態における形状比較の定量化の試みを振り返る.まずはじめに,かたちの構成要素としてのサイズとシェイプの定義とその幾何学的性質を論じ,かたちの数理への導入とする.かたちのもつさまざまな情報ソース(座標・輪郭・色彩・テクスチュアなど)を概観した上で,座標データに基づく幾何学的形態測定学(geometric morphometrics)の理論を解説する.とくに,D'Arcy Thompson以来の形状数学の理論が,統計学としての生物測定学の知的系譜の中でどのような位置づけを与えられるかがポイントとなる.かたちの定量化をめぐる過去の試行錯誤を振り返ることにより、今日の形態測定学を生み出した動機がはじめて理解できる。形態測定学に必要となる統計学的な「ものの考え方」についてもすこし触れたい。