種別 ワークショップ 提案者 矢原徹一(九大理生物)tyahascb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp 趣旨 テーマを特定せずに、最大8名の口頭発表を公募します。同時開催のシンポジウム・ワークショップ・形態測定学講座に対抗できる、意欲的で魅力的な発表の申し込みを期待しています。申し込みが8名をこえた場合、プログラム委員会により8名を選定します。なお、発表者には、次の発表の司会をお願いします。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「脊椎動物におけるミトコンドリア遺伝子のアミノ酸サイト別進化速度」
和田康彦(佐賀大学農学部;BIRD JST)、山田義之(佐賀大学農学部)、西堀正英(広島大学大学院生物圏科学)、安江 博(農業生物資源研ゲノム研究グループ)
ミトコンドリアは染色体とは別の環状DNAを持つ細胞内小器官で、ミトコンドリアの機能に関わる重要な遺伝子をコードしており、これらの重要な機能を持つ遺伝子のアミノ酸配列の進化速度は小さいことが期待されるが、脊椎動物のミトコンドリア遺伝子において、個々のアミノ酸サイト別に進化速度について検討した研究は少ない。そこで、哺乳類および鳥類のシーケンスデータを使用して、アミノ酸サイト別進化速度について検討した。PAMLのcodemlsitesプログラムのdiscrete gamma法を用いて非同義置換と同義置換の比率(dN/dS)について検討したところ、哺乳類のATP8においてポジティブセレクションしているアミノ酸サイトを発見した。さらに、哺乳類の系統樹の枝ごとに非同義置換と同義置換の比率を算出したところ、カバとクジラの共通祖先からクジラへ分岐する枝で大きなdN/dS比を示すことが明らかとなった。- 「安定した系統推定法と真獣類ミトコンドリアへの応用」
渡部輝明(高知医科大学)、岸野洋久(東京大学)、岡林喬久(高知医科大学)、北添康弘(高知医科大学)
ミトコンドリアDNAはこれまで広く哺乳類の系統推定に用いられてきたが、確立した系統関係はミトコンドリアDNAからは得られていない。予想を超えた進化過程におけるイベントが起きている場合には当然、分岐年代推定や系統樹構築における深刻なバイアスが存在する。そのような予期せぬ矛盾を考慮に入れたような統計的なモデルは今のところ提案されていないため、得られる距離行列などはそのadditivityにおいて貧弱である。我々はadditivityを強く崩しているサイトを特定する指標を定義し、高次レベルでの系統関係を仮定した場合にその系統関係を崩すサイトを取り除く方法を提案する。この方法をミトコンドリアDNAへ応用した。スプラプライメイトの単系統を仮定し、その系統関係を崩すサイトを取り除いた。結果として、全体の2%のサイトを取り除くことにより対象とする種の選択によらない分岐年代推定が可能となった。- 「機能獲得と消失からみた代謝経路進化の解析」
田中剛、池尾一穂、五條堀孝(国立遺伝学研究所、総合研究大学院大学)
各生物種に特定の酵素反応が存在するかは、完全ゲノム配列情報に基づく遺伝子産物の機能予測から比較的正確に予測できるようになりつつある。そこで本研究では、代謝経路の進化過程の解明を目的として、完全ゲノム配列情報が利用可能な生物種における酵素反応の有無から、それらの進化的な出現や消失のイベントを推定した。実際には、KEGGデータベースを用いて118生物種にわたる全1,585種類の酵素反応の有無を調べた。その結果、118生物種の共通祖先種では392種類以上の酵素反応が存在していたことが示唆された。更に、現存生物種に至る進化の過程で酵素反応の出現と消失のイベント回数は、計18,298回と推定されたことから、酵素反応のダイナミックな獲得や消失が代謝経路の進化に大きく寄与したことが示された。また、生物種特異的な代謝経路進化について考察する。- 「mtDNAからみる長鳴鶏の成立について」
小見山智義、池尾一穂、五條堀孝(国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター)
日本には20秒以上もの間鳴き続けることのできる長鳴鶏と呼ばれる鶏がいる。このように長く鳴くことのできる鶏は日本だけでなく、インドネシア、中国など日本近隣諸国にも見ることができる。この声を楽しむ文化は闘鶏と並ぶ鶏文化である。そこで、私たちはこの闘鶏や長鳴きの文化の流れと種の起源を明らかにすることにより、いままで定かではなかった日本鶏の導入経路やその成立過程を明らかにすることができると考えている。このようなアプローチは鶏だけでなく家畜化の要因やプロセスを明らかにすることにもつながる。そこで、本研究はこの日本の長鳴鶏の成立とその文化の流れを明らかにすることを目的として、mtDNAを使い、天然記念物12品種とそれ以外の3品種を加えた15品種83羽のサンプルを集め、D-loop領域の配列解析を行いNJ法とML法を用いて系統樹を構築した。この結果から娯楽性の高い闘鶏の文化と長鳴きの文化は非常に密接に関係があり、長鳴鶏は本州/九州の軍鶏から生まれたことが示唆された。- 「夜咲性植物ユウスゲ(Hemerocallis citrina var. vespertina, Hemerocallidaceae, Asparagales)の適応進化」
野口順子(京大院理植物)、洪徳元(北京中国科学院)
ユウスゲは黄色い花被と夕方開花し、翌朝閉じるという夜咲性の開花習性によって特徴づけられる植物でワスレグサ属に属し、日本および韓国に固有に分布している。ワスレグサ属植物は開花習性の属性に関して多様な群である。ユウスゲに最も近縁と考えられるH. flavaは夕方開花し、翌日の夕方閉花する(一日花)開花習性を示す。今研究では、ユウスゲ植物および夜咲性の属性の進化とその進化に関与する機構を明らかにすることを目的とし、ユウスゲおよびH. flava集団の開花習性の精査、外部形態の変異、および葉緑体DNAの分子生物地理学的手法を用いて解析を行った。その結果、ユウスゲは多系統群であり、それぞれの系列で一日花から夜咲性への適応進化が平行的に起こったこと、それには分布の南下が関与していること、そして、ユウスゲの進化には、開花習性に関与する適応進化とポリネータを介した進化の2つが関与したことが示唆された。- 「急速な種分化を種社会分岐として考察する −ヴィクトリア湖のシクリッドその他の事例を検討」
河宮信郎(中京大学経済学部)
進化において、形質的な差異が生存率(or死亡率)の差異をもたらす場合選択を確率的ふるい分け(Stochastic Screening)と呼ぶことにすると、これは人為選択やいわゆる性選択のような意識的協同的な選択(Intentional/Cooperative Selection)とは本質的に異なる。後者には固有の選択プログラムがはたらいており、選択基準や方向性が明らかになる。確率スクリーニングで急速かつ飛躍的な進化が起こることはなく、反対に意識的協同的な選択ではきわめて急速な変化が起こりうる。この選択プログラムは、魚類や鳥類の婚姻色や雄キリンの首丈や雄クジャクの羽の目玉模様など種ごとに決まる。これは雌雄に共有される種社会のコンセンサスであり、このプログラムの分岐が種の分化をもたらす。- 「発生制御関連遺伝子に対するシステム進化生物学的アプローチ」
荻島創一(東京医科歯科大学大学院システム情報生物学/生命情報学)、田中博(東京医科歯科大学大学院システム情報生物学/生命情報学)生命はシステムを複雑化させることで進化してきたが、そのいかなる段階においてもシステムとしての全一性がなければならないというシステム的内的拘束のため、階層的な「入れ子」構造で複雑化する進化過程をたどったと考えられる。これらの生物学的構造を支える実体は、例えばZootypeの背後にあるHox遺伝子系のように、遺伝子調節ネットワーク、細胞内あるいは細胞間の情報伝達系などの情報ネットワークである。従って情報ネットワークを担う遺伝子群においても階層的な入れ子構造を残しているはずである。本研究では、遺伝子重複による遺伝子ファミリーの複雑化と系統特異的な欠失によって、遺伝子ネットワークが階層的に形成されていく過程を、我々が最近開発した遺伝子ブロック節約法に基づいて、Hox遺伝子ファミリーを例に系統解析した。我々はこのようなアプローチをシステム進化生物学とよんでその体系的な方法論を構築しつつある。- 「mtDNA全長配列を指標とした鳥類におけるペンギン目の系統解析」
渡辺麻衣子(東工大)、二階堂雅人(東工大・統計数理研究所)、津田とみ(徳島文理大・東海大)、小林敬典(水産庁養殖研究所)、David P. Mindell(ミシガン大)、曹櫻(統計数理研究所)、長谷川政美(統計数理研究所)、岡田典弘(東工大)現生のペンギン類は、南半球の広範囲にわたって6属17種が分布している。その起源については、白亜紀に南半球において潜水性の飛行できる祖先から進化したものである、というのが現在の通説となっている。現生鳥類の中で特化した形態を持つペンギン類は、その分類学上の位置に興味を持たれ、これまで、形態学的、行動学的、分子学的といった様々な方法によって検討されてきた。その結果、ペンギン目は、ミズナギドリ目、ペリカン目およびアビ目のいずれかの科の鳥と最も近縁であることが示唆されているものの、確実な系統学的位置は研究者によって見解が分かれている。そこで本研究では、ペンギン目ペンギン科の鳥類における系統学的位置を明らかにする目的で、ペンギン科、ミズナギドリ科、アホウドリ科およびグンカンドリ科のmtDNAの全長配列を決定し、さらにアビ科も加える予定である。これらをデータベース上の既知の配列に加えて最尤法で解析中であるので、この結果を発表する。