種別 ワークショップ 提案者 水幡正蔵(在野の研究者) 趣旨 水幡は『新今西進化論』(発売/星雲社)刊行後、矢原徹一氏や岸由二氏ら進化学者とメ−ル論議を重ね、その進化理論としての合理性を検討してきた。その成果を持ち寄り、日高敏隆氏との直接対談も実現した。この対談で両者は「クジャクの雄尾羽は“適応”ではない」という事実認識で合致し、“適応”ではない進化があるなら「遺伝子コピ−率=適応度」と呼ぶこと自体に、重大な問題があることを浮き彫りにした。これは社会生物学の根本に対する疑問と言っていい。ちなみに新今西進化論では、“棲みわけ”で種社会が分裂する際には、近縁種との差異化をもたらす“種社会求心進化”が起こると説明する。“種社会求心進化”は、いわば種社会が分裂する際に必要な“種社会の旗”を進化させるものであり、クジャクの雄尾羽はこれにあたる。 また、ネオダ−ウィニズムでは配偶者選択を行う主体を“脳モデル”ではなく、事実上“より好み遺伝子”に設定しているが、これも新今西進化論との重大な争点となる。そもそも脳神経系の発達した一部鳥類(例えばコトドリ)や大半の哺乳動物では、配偶者への“より好み”が、種社会における学習によるものであることは明白である。また昆虫も含めて脳神経系を持つ動物では、あらゆる行動は、脳メモリ−に取り込まれた行動プログラムが起こしている。そこで新今西進化論は、学習とは別に昆虫に顕著な“ダウンロ−ド”と呼ぶべき自己プログラミングがあることを指摘し、学習・ダウンロ−ドによって種社会の構成員たちが共有する行動プログラム総体を、“種社会ソフトウェア”と規定した。そしてこれを情報処理システムの“脳モデル”として提唱する。はたして進化論は遺伝子モデルのみに還元したネオダ−ウィニズムで足りるのか。それとも遺伝子モデルと脳モデル(種社会ソフトウェア)の相互作用で説明する新今西進化論を必要としているのか。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「新今西進化論オリエンテ−ション」
水幡正蔵(在野の研究者), 河宮信郎(中京大学)新今西進化論では、進化理論の常識となっている「自然選択」や「種の起原」に対する考え方が大きく異なり、まずはそこを理解してもらう必要がある。「自然選択」については、新今西進化論では“確率淘汰”と規定して、脳プログラム(種社会ソフトウェア)による“種社会選択”とは厳密に分けて考える。種社会選択は配偶者選択とも言えるが、「適応」と「種社会求心」の2つの進化目的から“交配権者”を選ぶ。したがって従来の性選択と違って「適応」進化の大半も種社会選択で説明する。それゆえ種社会選択がメインで確率淘汰(自然選択)は進化のサブシステムとなる。もう一方の「種の起原」であるが、ダ−ウィンパラダイムと異なり、進化が個体の突然変異に始まると考えない。あくまで「種社会の起原」(カンブリア大爆発=脳起原)から継続している種社会の分裂でとらえる。したがって「あらゆる動物種社会の起原はカンブリア大爆発にある」となる。これだけ読んだだけでも、新今西進化論とネオダ−ウィニズムの間に強大な「バカの壁」が横たわっていることが分かるだろう。このオリエンテ−ションでは、まずこの「バカの壁」の撤去を行う。- 「シクリッドが実証する“種社会求心進化”と“種社会の分裂”」
河宮信郎(中京大学教授)世界の進化生物学者の注目が、ビクトリア湖のシクリッドたちに集まっている。彼らは25年に1種という割合で、種分化を遂げてきたといわれる。そこでは雌がある特定の色彩や紋模様をもった雄をいつも選ぶ。つまり性選択によって種分化が急速に進むのである。ところが従来の性選択説は、体表模様の差がどうして健康指標や逆説的指標(ハンディキャップ)となるのか、著しく根拠に欠けていた。これに対して、種社会の分裂(棲みわけ)による種分化の説明は明解である。なにしろ“交配権ル−ル”(MPR)で選ばれる雄は「適応」にかなう形質の個体だけではない。種社会の構成員たちがばらばらにならないための、「種社会求心」にかなう個体も選ばれる。これは雄の体表模様等をいわば“種社会の旗”として進化させる。シクリッドの現実の種分化はこの説で見事に説明できる。フィシャ−以来の遺伝子に還元した性選択理論は、種分化するシクリッドたちの現実に照らして、棄却すべきである。※原文ダウンロ−ド:中京大学HP/学部・研究科・研究所/経済学部HP/経済研究所/学術刊行物/ディスカッションペ−パ−(2003JUNE)108K(無料)- 「“種社会の制服”はどのように進化したか・・・進化と配偶システムの関係論」
水幡正蔵(在野の研究者)動物種の配偶システムの違いは、これまでトリバ−スの投資理論のように、種ごとに場当たり的に説明されてきた。純粋の投資理論ならすべて一夫多妻だが、生態的な制約等で1夫1妻もあるというものだ。ところが種社会選択説では、配偶システムの違いは進化モ−ドの違いに直結する。つまり1夫1妻や乱婚ならMPRは、基本的に“平衡モ−ド”にあり、進化は起こっていない。これに対して明確な“交配競演”がなされる一夫多妻制なら、MPRは“強化モ−ド”にある。この説が正しいなら、例えば鳥類の“種社会の制服”(種に固有の体表模様)の進化過程は、現在MPRモ−ドの違う種社会を比較検討することで明らかになる。つまり現在の鳥種をMPR“強化モ−ド”“緩和モ−ド”“平衡モ−ド”に仕分けして、進化過程のモデルをつくるのである。キジオライチョウは強化モ−ド、ゴクラクチョウやマイコドリは緩和モ−ド、オシドリは緩和モ−ドから平衡モ−ドへのちょうど転換期、オオハシやツノメドリは平衡モ−ド。“種社会の制服”は進化中には雄が先行して獲得(性的二型)し、平衡モ−ドに達すると雌雄同服となる傾向が分かる。従来の性選択理論だけではなく、進化との関係性を無視した配偶システム論とも決別を主張する。