種別 ワークショップ 提案者 白井 剛(生物分子工学研究所・生命情報)、小川智久(東北大・生命科学) 趣旨 分子生物学の発展による塩基配列の迅速大量決定が、進化研究に革命的な変化を与えたことに異論のある進化研究者はいないと思われる。だが、より高次の構造であるタンパク質立体構造については、意見が分かれるだろう。基本的にデジタルな配列情報にくらべて、情報量はより大きいがアナログ情報である立体構造は、たとえば進化距離の推定には向いていない。また、配列に比べて圧倒的に解析例が少ないことも難点であった。しかし、構造ゲノミクスによるフォールド空間の網羅的探索が始まった現在、大量に蓄積された構造情報が進化研究にどう使われうるか整理してみる時に来ている。このワークショップは、立体構造に興味を持って進化研究を行っている研究者、あるいは進化に興味を持って構造ゲノミクス、プロテオミクスに携わる研究者に、大量の構造情報が手に入るであろう5-10年の後に、それをどの様に進化研究に利用できるかを討論してもらう場にしたいと考えている。立体構造による進化トレース、大規模構造比較による分子機能進化の解析、超分子複合体進化の解析、およびそのための方法論開発などを話題として考えている。3-4名の講演者を公募する。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「構造ゲノミクスの時代は分子進化研究にどの様なインパクトを与えるか?」
白井剛 (生物分子工学研・生命情報)How can the structural genomics impact on studies of molecular evolution?
SHIRAI Tsuyoshi (BERI, Dept. Compt. Biol.)分子生物学の発展による塩基配列の迅速大量決定は、進化研究に革命的な変化を与えたが、より高次の構造であるタンパク質立体構造については、その情報が進化研究にどの様に使われうるか意見が分かれる。基本的にデジタルな配列情報にくらべて、情報量はより大きいがアナログ情報である立体構造は、たとえば進化距離の推定には向いていない。また、配列に比べて圧倒的に解析例が少ないことも難点であった。構造ゲノミクスによるフォールド空間の網羅的探索が始まった現在、大量に蓄積された構造情報が進化研究にどう使われうるか整理してみる時に来ている。このワークショップでは、立体構造に興味を持って進化研究を行っている研究者、あるいは進化に興味を持って構造ゲノミクス、プロテオミクスに携わる研究者ともに、大量の構造情報が手に入るであろう5-10年の後に、それをどの様に進化研究に利用できるかを討論する。- 「ハイスループットモデリングの実行とデータベース」
岩舘満雄 (北里大・薬)Highthroughput Protein Structure Modeling and Database
IWADATE Mitsuo (Schl. Pharm. Sci., Kitasato Univ.)FAMSBASEは、遺伝研GTOP公開の161生物種中128生物種についてのRPS-BLASTからホモロジーモデリングソフトFAMSでモデルを構築したデータベースである。全ゲノム遺伝子数374377個のうち配列相同性があるもの(e値<0.001)は184090個であり、全遺伝子の49.2%に相当する(2002年8月30日)。「タンパク3000」のような構造ゲノムプロジェクトの進行に伴いこの割合が高まっていくことだろう。FAMSBASEはRPS-BLAST出力の上位5個のモデルを構築しており、モデル数の合計は 611485個である。計算には味の素ライフサイエンス研究所内北里大学分室の1000台のPCクラスターを用いた。FAMSについては、2年前のCAFASP2のCM部門においても能力を示してきたが、CAFASP3に おいてもFAMSが側鎖を確度高く構築しており、生化学の考察を裏付けに役に立つことを強力にサポートしてくれている。- 「配列・立体構造・機能に基づくTIMバレル・フォールドの系統的解析」
長野希美 (産業技術総合研究所・CBRC兼JST-PRESTO)The systematic analyses of TIM barrel fold based on sequences, structures, and functions
NAGANO Nozomi (CBRC/AIST & PRESTO/JST)TIMバレルと呼ばれる立体構造(フォールド)は、蛋白質に頻繁に観られる構造ユニットであり、特に酵素の1割は、このフォールドをとり、細胞内で解糖系など生命の基本となる代謝系で働いているものが多い。しかしながら、アミノ酸配列レベルの解析のみでは、これらの酵素蛋白質間の進化的な類縁関係を見出すには、あまりにも低い配列相同性しか観られない。そこで本研究では、配列・立体構造・機能(活性残基、リガンドの種類・結合部位など)を系統的に解析することによって、これらのTIMバレル・フォールドをもつ18のスーパーファミリー間の関係を解釈しようとしている。参考文献:
1) Nagano, N., Porter, C.T. and Thornton, JM. (2001) Protein Eng., 14,845-855.
2) Nagano, N., Orengo, C.A. and Thornton, JM. (2002) J. Mol. Biol., 321, 741-765.- 「蛋白質の立体構造比較法の開発と分子進化・機能推定への応用」
川端 猛 (奈良先端・情報)Development of protein 3D structure comparison method and its application to molecular evolution and functional characterization
KAWABATA Takeshi (Grad. Schl. InformationSci., NAIST)我々のグループでは、豊富な蛋白質立体構造データを情報を生かすため、 立体構造比較法の開発を進めている。既にマルコフ連鎖の立体構造変化のモデルを用いたMATRASというプログラムを開発し、そのWEBサーバの公開も始めた。(http://biunit.aist-nara.ac.jp/matras)。これは主鎖レベルのラフな立体構造の類似性を比較するツールで、アミノ酸種は一切考慮しない。立体構造の特徴として、配列に比べて進化史の中で変わりにくいという性質がある。この性質から立体構造は分子進化研究に2つの有用な情報を提供する。一つは、立体構造の類似性からより遠い相同性を知ることができること、もう一つは、精度の高いアライメントが立体構造の情報を用いて実現できることである。質の高いアライメントは、信頼のおける分子系統樹の作成やプロフィール作成に役立つはずだ。また、立体構造はその分子機能と密接な関係がある。我々は、比較的近縁な蛋白質において、相互作用の形式が異なる場合があることに注目し、それは表面のアミノ酸分布の変化によるものだと考え、蛋白質表面の疎水性、静電ポテンシャルの比較法を現在開発中である。その成果についても報告したい。- 「染色体テリトリーの核内配置からみた構造ゲノミクスとしてのゲノム進化」
田辺 秀之(国立医薬品食品衛生研究所・変異遺伝部・細胞バンク)Chromosome territory arrangement in the interphase nucleus for the analysis of genomic evolution as a study of structural genomics
TANABE Hideyuki (NIHS, JCRB Cell Bank)動植物細胞の間期核における染色体は、クロマチンファイバーがほどけたスパゲッティのような構造ではなく、各染色体ごとに高度に区画化された「テリトリー」構造を持つ。この染色体テリトリーの核内配置はランダムではなく、核の中心から核膜周辺部にかけての放射状核内配置については、染色体のサイズ、遺伝子密度、遺伝子発現の状態と密接に関連している。我々は、放射状核内配置が顕著に異なるヒト18番および19番染色体に着目し、18番染色体:核の周辺部、19番 染色体:核の中心付近、というトポロジーが進化的に保存されているかどうかを霊長類およびニワトリ細胞を用いて3D-FISH法により比較検討し、進化の過程で生じた染色体再編成にもかかわらず、このトポロジーはヒトから霊長類、ニワトリ細胞に至るまで高度に保存されていることを示してきた。ニワトリ細胞では、遺伝子密度の低いマクロ染色体:核の周辺部、遺伝子密度の高いマイクロ染色体:核の中心付近、というトポロジーが明らかにされているが、本研究では、ヒト-ニワトリ間の比較遺伝子マップのデータから、マクロおよびマイクロ染色体に対応するヒト染色体ホモログを同定し、放射状核内配置からみた「進化的保存モチーフ」を浮き彫りにする ことを試みるとともに、構造ゲノミクスとしてのゲノム進化を考察する。