種別 シンポジウム 提案者 自然史学会連合 趣旨 一次資料(剥製標本やフィールド)から材料や情報を抽出して、それを解析していく一連の流れとその魅力をフロアと分かち合いたいと思う。データの提示だけでなくて、研究者のナチュラルヒストリー的な日々の努力に進化学研究の魅力を感じてもらえれば幸いである。例えば動物遺体を前にした解剖学の思索、壊れたDNAを読んでいく遺伝学の苦心、化石を掘りながら太古の真実を読み取っていく古生物学の愉しみに、触れることにしたい。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「遺体科学の可能性・ジャイアントパンダの掌に語らせる」
○遠藤秀紀(国立科学博物館・動物研究部)
自然史学会連合からセッションを企画させていただいた。この企画を、ナチュラル ヒストリーを愛する人々への、"現場"からセオリーへの奮闘の記録として伝えたいと 思う。解剖学者がいかに姿を消そうとも、遺体を用いて最大限に成熟した科学的成果 を議論しようとするのが解剖学の姿だ。ジャイアントパンダの手掌部運動機能を解明 した試みを例に、演者の解剖学の営みを紹介したい。 ジャイアントパンダの遺体から、演者はCTとMRIの三次元画像解析によって、擬似母指 (橈側種子骨)の運動特性を解析した。橈側種子骨は第一中手骨から独立して動くこ とはできない。前腕手根関節の強い屈曲により、橈側種子骨・副手根骨・指骨群が取 り囲む把握空間が構成され、典型的なクマ科型の肢端が、優れた把握機能を示すこと が明らかとなった。各把握コンポーネントの動力となる筋群の運動ほかに、母指対立 筋が把握対象を直接固定する解析像が確認された。- 「化石を追う・生態系はどこまでわかるのか?」
○真鍋 真(国立科学博物館・地学研究部)
中生代(約2億4800万年から6500万年前)は,その動植物相の変化により三畳紀, ジ ュラ紀,白亜紀に区分されている.白亜紀(約1億4400万年から6500万年前) は爬虫 類,鳥類,哺乳類,植物などで,現代まで存続する目の最初の種が出現した 時代で, 生態系進化の変曲点ともいわれる.白亜紀初頭の日本の手取層群と, 恐竜絶滅前の K/T境界(白亜紀と第三紀の境界)前後の北米の地層における小型脊 椎動物群の研究例 などを紹介し,白亜紀における爬虫類進化や生態系進化の解明の 可能性を考察する. 日本でも北米でも,小型脊椎動物化石を丹念にサンプルしてみ ると,それらの多様性 が想像以上に高く,ジュラ紀から白亜紀,白亜紀から第三紀 への変遷のイメージが大 きく変わりつつある現状を紹介する.- 「ancient genomic DNAを求めて・ニホンオオカミのゲノム遺伝子解析プレリュード」
○舘 鄰(三菱化学生命研)
ニホンオオカミは1905年以来生息記録の無い絶滅集団である。東京大学農学部に残さ れた剥製標本から、 同集団の遺伝子解析を試みたので紹介する。今回シークエンスの 対象としたのは、X染色体上に存在し、 歯牙のエナメル質に発現するアメロゲニン遺伝 子(AMELX)である。皮革サンプルよりPCRで該当領域を増幅、 サブクローニングを行っ て351塩基対の配列を決定した。比較のため家畜イヌと大陸産オオカミ個体を用いて い る。その結果、三者間では塩基配列でもアミノ酸レベルでも互いに変異が確認され、 ニホンオオカミ 集団の表現型レベルでの特異性が示唆された。今後近縁群との比較に おいて、ニホンオオカミ集団の系統 進化学的解析が進むことが期待される。また、絶 滅集団のいわゆるancient DNAは、系統解析に加えて表現型 の議論に踏み込める可能性 を示している。