種別 ワークショップ 提案者 矢原徹一(九大理生物)tyahascb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp 趣旨 保全生物学・復元生物学に関する発表を、最大7名まで公募します。地域の生物多様性は、どのような仕組みで維持されているか? それはどのようにすれば保全できるのか? 生物多様性の復元は可能なのか? といった問題について検討したいと思います。したがって、生物多様性の維持機構についての基礎的研究発表も歓迎します。また、生物多様性のパターンを説明する理論(ロッタリーモデル、群集の中立モデルなど)についての発表も歓迎します。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「ランダム群集モデルにおける多種共存解と種の豊富さのパターン」
時田恵一郎(大阪大学サイバーメディアセンター大規模計算科学研究部門)
ランダム群集モデルに対する、May(1972)による全種共存解の安定・不安定転移の理論は、現在に至るまで生態学に大きな影響を与え続けている。一方、このMayの研究に基づく「複雑さ及び多様性と安定性の相反関係」は、巨大な群集の相互作用を全く相関のない非対称ランダム行列と仮定することの限界を示しているともいえる。進化を通じて「自然のバランス」が作り上げてきた「相関」を見いだすための理論的アプローチを報告する。特に、Mayが扱った非対称行列以外のランダム行列群に注目することにより、複雑な群集においてもある種の安定性が保たれながら多種共存が実現される場合があることを示す。さらに、様々な群集で実際に観察される個体数の豊富さのパターンのパラメータ(群集の成熟の度合い、群集における生産者の割合および種間相互作用の複雑さなど)依存性に対するランダム群集モデルの理論を示す。- 変動環境下での保全戦略:最適保全努力と最適調査努力
横溝裕行(九州大学大学院理学府生物科学専攻)・Patsy Haccou(Leiden University)・巌佐庸(九州大学大学院理学研究院)絶滅の危険のある個体群に対しての保全政策を考えるとき、環境変動による生存率の変動、個体数などの不確実性に対処していかなければならない。 本研究は、このような不確実な状況下で、どのように保全政策を決定すればいいのか数理モデルを用いて考察を行った。 生存率に確率的なノイズが加わる個体群について、最適な保全努力量と調査努力量を考える。保全努力量を増やせば絶滅リスクは減らせるが、経済的なコストを伴う。また、個体数調査はコストがかかるが、個体数をより正確に知ることができ、効果的な保全を行うことができる。 そこで、絶滅確率に個体群の価値をかけたものと保全努力や個体数調査の経済的コストの和を全コストと定義し、これを最小にするような最適な保全,調査努力量を求めた。数理的解析により主に以下のことが明らかになった。[1]、最適保全努力量が中程度の環境変動の大きさで最も大きい。 [2]、年により個体数が大きく変動する場合や、環境変動が小さい場合に最適調査努力は最大となる。- 「生物多様性の研究・保全・復元:金沢大学角間キャンパス里山 ゾーンにおける取り組み」
中村浩二(金沢大理)- 「生物多様性の保全戦略:九大新キャンパスでの保全事業を例に」
矢原徹一(九大理生物)ある地域が開発にさらされたときに、どのような保全目標を達成すれば、生物多様性が保全されたと言えるのだろうか。九大新キャンパスでの保全事業において、私が出した答えは、「全種保全」という目標である。開発行為の下で、用地内のすべての種を残す必要条件を達成するために、3つの戦略を採用する。(1)植物の網羅的分布調査と低頻度種の徹底保全、(2)水辺環境の多様性の保全、(3)哺乳類が存続可能な景観の保全。この戦略にもとづく保全事業の成果を報告し、今後の方向を考える。