種別 ワークショップ 提案者 小林史郎(高知県立牧野植物園、kobayashi@makino.or.jp) 趣旨 多くの植物は雌雄同体であり自殖が可能である。自殖には近交弱勢というコストがある一方、他殖には媒介者誘引や不確実性というコストが存在する。そのため自殖/他殖という選択肢の存在は、植物の繁殖システムの進化において様々な側面に影響を及ぼしている。このワークショップでは、自殖/他殖と関連して資源分配・種子散布・花器官・性的二型・自殖率自体などの進化についての話題を提供する。1〜数名の発表を公募する。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「オオバナノエンレイソウ集団の交配システムと花のディスプレイ戦略の進化」
○富松裕・竹中宏平・大原雅 (北海道大・地球環境)
北海道のオオバナノエンレイソウ集団では、交配システムの地理的分化が生じ ている。南部や北部では自家和合性を示す。東部では主に自家不和合性を示す が、一部で自家和合性集団が混在する。さらに、花への資源投資量、花内での 資源配分パタン、花数と様々なレベルで地理的分化が存在することが分かって きた。花の大きさや数・その構成を決定する資源配分戦略を、ここでは「ディ スプレイ戦略」と呼ぶ。このようなディスプレイ戦略は、自家受粉能力の獲得 の過程で進化してきたと考えられるが、オオバナノエンレイソウのディスプレ イ戦略と交配システムとは必ずしも対応しない。この結果は、自殖の進化が繰 り返し生じたこと、その進化プロセスにはディスプレイ戦略の進化を伴うもの と、伴わないものとがあることを示唆するように見える。本発表では、このよ うな最近の研究成果について紹介し、自殖とディスプレイ戦略の進化要因とそ のプロセスについて議論する。- 「ホトケノザの開放花・閉鎖花由来種子のアリを介した散布戦略」
○寺西眞(京大・生態研センター)、藤原直・白神万祐子・山岡亮平(京都工繊大・ 繊維・応用生物)、鈴木信彦(佐賀大・農・応用生物科学)、湯本貴和(総合地球環 境学研究所)
ホトケノザは、主に他家受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を1個体が同時期につける一年草である。種子にはエライオソームを付着させ、アリに種子散布を依存している。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適しているが、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる環境への分散・定着に適していると考えられる。開放花および閉鎖花に由来する種子の形質とアリによる種子運搬行動を調べた結果から、ホトケノザは上記仮説を支持する種子散布を行っている可能性が示唆された。- 「中間的他殖率は安定か?:種間比較によって、中間的形質の安定性を検証するためには、どんな統計的手法をつかえば、いいのか?」
○大塚愛子(九大・理)、小林史郎(九大・理)、粕谷英一(九大・理)、矢原徹一 (九大・理)
植物の繁殖戦略は完全他殖から完全自殖までの非常に幅広い変異を持つ。しか し、その戦略をとっている種数の分布をみてみると、中間的な他殖率をとる種 が少ないことがわかっている。これまでこの事実は近交弱勢と他殖率の理論的 研究から、「中間的他殖率が不安定」という仮説で説明されてきた。しかしこ の仮説は系統関係を考慮した種間比較では検証されておらず、また仮説を検証 する方法もなかった。そこで我々は最尤法を使い、この仮説を検証するための 系統を考慮した新しい統計的方法を開発した。この方法は他殖率を3つのクラ ス(高、中、低)に分類し、系統樹上での3つのクラス間の推移確率を推定す る。もし中間的他殖率が不安定なら、中間的他殖率に向かって進化する推移確 率はその逆方向より小さいと予測される。そこでこの2つの推移確率の相対的 な大きさを統計量として検定を行う。この方法をモミジハグマ属での実際のデ ータに適用すると、中間的他殖率は有意に不安定とは言えなかった。- 「バイカツツジの仮雄蕊による自殖の回避」
○小野晶子・堂囿いくみ(都立大・理・牧野標本館)
バイカツツジ(ツツジ属)の花では,雄蕊5本のうち2本が花糸の基部に長毛をもつ仮雄蕊となる.開花初期には花柱は短く,柱頭は仮雄蕊の近くに位置するが,後期には花柱が伸びて柱頭が機能的雄蕊の葯に接近する.仮雄蕊の存在と柱頭位置の経時的変化が繁殖成功に及ぼす影響を明らかにするため,開花初期(花柱短い)と後期(花柱長い)において,仮雄蕊と機能的雄蕊の葯を除去し,送粉昆虫(ミヤママルハナバチ)の訪花による結実率を調査した.結果,開花初期には仮雄蕊があると結実率は低いが,後期には仮雄蕊の有無は結実率に影響しなかった.また,機能的雄蕊があると結実率が高かった.更に,仮雄蕊がある花では,送粉昆虫訪花後により多くの花粉が持ち出されていた.以上のことより,仮雄蕊は,開花初期の自家受粉を防ぐと共に,マルハナバチの行動を操作し,より多くの花粉を持ち出させることで,繁殖成功を高めている可能性がある.- 「自家不和合性雌雄同株における自家受粉のコスト」
○川越哲博(神戸大・理・生物)、鈴木信彦(佐賀大・農)
自殖とそれに伴う近交弱勢が植物の繁殖システムの進化に大きな影響を与えてきたこ とはよく知られている。しかし近年になって自家受粉をすることそのものが植物の適 応度を下げてしまうという研究が多く報告されるようになってきた。そして従来は自 殖の回避のために進化したとみなされていた雌雄異熟や異形花柱性といった花形質 が、 自家受粉そのもののコストを回避するためにも機能していると考えられるように なった。 本講演では、自家不和合性の雌雄同株植物アケビにおいて(1)自家受粉(隣 花受粉) が雌適応度にコストをもたらすこと、(2)花サイズの性的二型が送粉昆虫の 花選択に影響し て隣花受粉が回避できること、について報告する。