種別 シンポジウム 企画責任者 池内昌彦 (東京大学・大学院総合文化研究科) 趣旨 光合成は植物だけでなく、光合成細菌やシアノバクテリア(ラン藻)の基本的なエネルギ−供給機能として重要であるとともに、地球環境へも大きな影響を及ぼしています。このような光合成と光合成生物固有の機能の進化を解析することは、その働きと地球環境との相互作用を理解するうえで必要不可欠です。さらに、昨今のゲノム生物学の研究の進展は、貴重な遺伝情報を提供しており、これまで容易ではなかった新しい試みが可能になりつつあります。本シンポジウムでは、このような最近のゲノム研究の展開を軸として、今後の光合成の進化の研究における問題点やブレイクスルーの可能性などを討論します。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「ゲノムと機能から見た光合成系の進化」
○三室守(京大、院人間環境)
光合成細菌から高等植物までの光合成生物の進化の中で、2カ所の不連続な段階が ある。ひとつは非酸素型光合成生物から酸素発生型光合成生物、シアノバクテリア、 の誕生であり、ふたつめは葉緑体の出現である。後者は葉緑体ゲノムの系統性解析か らただ1回の細胞内共生の結果と考えられている。前者の過程については、シアノバ クテリアの反応中心が2種類の光合成細菌のそれぞれの性質を受け継いでいることか ら、細菌間の(1) 融合、(2) 共生、(3) 遺伝子の水平移動、のいずれかの過程によっ て誕生したと考えられるが、実際はまったく未知である。Gloeobacter violaceusは 16S rRNAを用いた分子系統樹で最も初期に分岐するシアノバクテリアであり、その光 合成反応系は様々な意味において未完成である。この生物と他のシアノバクテリアの 機能とゲノムの比較によって進化過程を考察する。- 「光合成生物の遺伝子の進化の検証」
○池内昌彦(東大、院総合文化)
われわれは、光合成生物の遺伝子の進化の実験的検証のために、シアノバクテリア における遺伝子の自然変異やDNAの重複などが、光合成などの機能に与える影響を解 析している。われわれはこれまでに、光化学系の量比を調節する遺伝子の機能欠損 が強光環境への適応に積極的に関わっていることを示している。また、転写因子の ドメインの機能欠損が必ずしもその遺伝子全体の機能欠損につながらない例も見い だしている。このようなゲノム・遺伝子の可塑性が光合成生物の進化に与える影響 を議論する。- 「光合成の進化の実験的検証」
○田中歩(北大、低温科学研究所)
光合成生物は進化の過程で多様な色素系を獲得してきた。例えば緑藻はクロロフィル bを,紅藻はフィコビリンを、褐藻はフコキサンチンを固有の光合成色素として利用 している.分子系統学的解析は,植物の進化の過程を詳細に明らかにし,植物の進化 が色素系の多様化と密接に関係していることを示している.しかし,進化の道筋とと もに,進化の生化学的過程を明らかにすることも重要な課題である.しかし,DNAや 化石による研究は,進化の生化学的過程を明らかにはしない.そこで、我々は、過去 に起きた出来事を部分的に再現し、それを解析することで、進化の生化学的過程を解 明することを試みた。今回は,クロロフィルbの獲得過程や,海洋の一次生産で最も 重要な役割をしているプロクロロコッカスの出現に伴う色素の変異についての実験的 な解析を報告する.- 「光合成微生物ゲノムのメガクローニング」
○板谷光泰(三菱化学生命科学研究所)
バクテリア間の水平伝播によれば、異なるシステム(=遺伝子群)が予告もなく進入してくる。進入された側の生存への対応は、細胞内ネットワークの混乱、遺伝子の再編成、そしてゲノムの多様性創生のシナリオが考えられる。自然では環境変化という偶然に左右されるこのプロセスを実験室レベルで検証可能になりつつある。実験的には枯草菌ゲノムベクター中に、シアノバクテリアゲノムをメガクローニングすることに他ならない。メガクローニング法は1000 kbのDNAサイズを対象する以外にも幾つかの特徴があり、(1)連続した切れ目のないDNAがクローニングできる、(2)クローニング領域は制限酵素部位に制限されない、(3)必要なのは塩基配列情報とDNA溶液だけ、(4)クローンされたDNAは非常に安定に保持できる、(5)組み込んだDNAの塩基配列をピンポイントで加工できる。メガクローニングワールドを紹介したい。