種別 ワークショップ 提案者 首藤絵美、加茂将史(二人とも九州大学・理・生物) 趣旨 様々な種において、求愛行動から交尾に至るまでの過程に注目すると、雄間競争によるものや、シグナルを介した雌による選択、さらにはヒトのように雌雄双方が求愛し選択しあうなど様々である。現実的に情報は不完全であり、探索範囲や時間が限られてといるときにはどのように配偶者を選択するのだろうか。求愛に長い時間を費やした雄は求愛成功率が高かったり、魅力的な雄のほうが求愛成功率が高かったりする。求愛戦略は、各求愛様式や個体の魅力にどのように依存するのだろうか。配偶者獲得に至るまでの過程をシグナルの進化、最適探索の問題として様々な種について議論したい。 予定講演者の氏名、所属、タイトル
本ワークショップでは企画者1名が、双方が選択を行いうる場合の理論的研究の紹介を行います。数名の講演者を招待し、その他の講演者を公募する予定です。 求愛行動について話題を提供してくださる方々の講演を希望します。
- 「個体の魅力の違いは最適ガード努力を変えるか」
○首藤絵美・吉田功・佐々木顕(九大・理)
様々な種の交尾に至るまでの過程に注目をすると、雄が選ぶものもあれば雌が選ぶものもある。また、求愛をする性の形質に注目すると、繁殖成功度に違いをもたらす形質(例:体色など)も個体間で異なる。さらに、求愛の試行回数が多い個体ほど、交尾に至る確率が高いという報告もある。
本研究では、性淘汰と交尾前ガード戦略を合わせて議論できる数理モデルを構築した。このモデルでは、求愛中に他個体によって求愛を中断させられることがないため、求愛は交尾前ガードの効果も持つ。ガードする性が雄である場合と雌である場合双方について最適ガード時間を調べた。
本報告では、個体の魅力による最適ガード時間の違いについて報告する。雌がガードする場合、雌は雄とは異なり交尾後妊娠期間があるため、すぐに次の交尾に至ることはできない。ガードする性の違いがガード時間にどのように影響するかについても議論する。- 「グッピーのメスは相対的、かつ非線形にオスを好んでいる」
○正路章子・河田雅圭(東北大・生命科学)
性選択は、一見生存に不利に見えるはでなオス形質をメスによる選好で説明しようとする理論である。グッピーは卵胎生の陸水魚で、性選択のモデル生物としてよく研究されてきた。グッピーのメスはオスのオレンジ色のカラースポットに対して強い選好性を示すことが知られている。しかし、グッピーでは性選択のモデルと矛盾する事例も多い。たとえば、メスによる強い選好性が存在するとオス形質の多様性が失われると予測されるが、グッピーでは集団内でオス形質の多型が維持されている。また、選択圧に対する応答が速いにもかかわらず、異なる川に生息するグッピーの間で繁殖隔離の傾向はいまだ観察されない。これらの問題はすべて、オス形質に対してメスの選好性がどのような方向、強さの選択圧を引き起こすか、という問題に起因する。そこでわれわれは、従来のメスの選好性の記述方法に問題があると考えて、メスの選好性の様式を調べた。- 「性フェロモンを介した蛾類の配偶行動システム」
○中 秀司 (農環研・昆虫研究グループ)
蛾類の多くは、雌性フェロモンの放出とそれに呼応する雄の行動連鎖で配偶行動が成立している。多くの場合、蛾類の雌性フェロモン構成物は[炭化水素+官能基]で構成され、系統的に近い種同士は、非常に似通ったあるいは同じ構造の化合物群で性フェロモンを構成している(Arn et al., 1992, 1997)。Butenandt et al.(1961)による性フェロモンの発見以降、蛾類の配偶行動は、常に嗅覚刺激が主軸に置かれている。近縁種間の生殖隔離機構は、主に雌性フェロモン構成物の成分比、あるいは配偶行動が誘起される時間帯や食草の相違などによって語られてきた(e.g. Lofstedt et al., 1991)。演者は代表的な昼行性蛾類のスカシバガ科の配偶行動解析を進め、注目すべきいくつかの知見を得た。本講演では、蛾類の配偶行動について、近似種間の生殖隔離機構、フェロモン成分とその応答の進化に関する代表的な研究と共に、演者の研究からいくつかの興味深い例を紹介し、蛾類の配偶行動システムの進化について考察したい。- 「頭足類における生殖行動様式と脳・神経基盤」
○池田譲(理研・脳科学総合研究センター)・滋野修一(理研・発生再生科学総合研究センター)
頭足類は無脊椎動物の中でも非常に複雑な脳を持ち、多様な行動様式を示す。現存種はすべて海産で活動的な遊泳能力を持ち、飼育が極めて困難なことから、体系的な行動学的研究は遅滞してきた。しかし近年、頭足類が、動物界でも独特な色素胞パターンと姿勢変化、いわゆるボディパターンを介して、求愛を含む多様な生殖行動を行うことが分かってきた。私達は、頭足類の脳と行動の進化を研究する目的で、長期飼育施設において各種頭足類を飼育し、最も複雑な個体間のやり取りが現れる生殖行動に注目してきた。本発表では発達した社会性を有し、最もボディパターンのバリエーションが多いアオリイカを中心に、交接・産卵行動、産卵後の卵保護行動などについて紹介する。また、この種の生殖に関わるとされる柄下葉が他種に見られないほど特化しており、色素胞パターンも頭足類中最も多様であるなどの背景を考え、これら脳神経基盤と生殖行動との関連性について考える。- 「一夫一妻鳥類であるシジュウカラのオスの遺伝的生存力:ヘテロ接合度を用いた解析」
○1河野かつら・2山口典之・3粕谷英一・4矢原徹一(1,3,4九州大学・理・生物、2立教大学・理・生命理学)本研究ではシジュウカラを材料として"個体あたりの平均へテロ接合度"を生存力の指標とし「オスの装飾形質は遺伝的生存力を反映しているかどうか」というハンディキャップ仮説を検証した。結果@これまで一般に言われてきた結果とは逆に、ヒナの体サイズ(生存率の指標)とヘテロ接合度の間に、有意な負の相関がみられ、また、その傾向はメスよりもオスで顕著であった。結果Aこの個体群のシジュウカラではネクタイ(装飾形質・オスの遺伝的生存力の指標)とヘテロ接合度との間に有意な関係はみられなかった。また、個体の形態形質と繁殖成功に関しても一貫した傾向がなかった。[まとめ]目的である「オスの装飾形質は遺伝的生存力を反映しているかどうか」は検出できなかったが、外交弱勢が観察された。シジュウカラでは出生地から多くの個体が分散するため、自分と遺伝的に近いものと繁殖した方がかえって適応度が高くなるのかもしれない。