種別 ワークショップ 提案者 高橋亮 (理研ゲノム科学総合研究センター)、舘田英典 (九大・理) [3G1]の続き 予定講演者の氏名、所属、タイトル
- 「ショウジョウバエ遺伝子のコドン3番目におけるGC含量の進化とgenome-wideな要因の影響―ヒストン遺伝子の解析を中心としてー」
松尾義則(徳島大学総合科学部)
DNAレベルでの遺伝的変異のうち遺伝子のコドン3番目の変異はタンパク質のアミノ酸を変化させないものの割合が多く、表現型の違いに大きく影響しているとは考えにくい、しかしながら、GC含量でみれば、明らかに種間で変化が起こっており、何らかの進化的要因が働いていると思われる。遺伝子のコドン3番目の塩基配列やGC含量にどのような進化的要因が働いているかについてショウジョウバエヒストン遺伝子を用いて解析した例を紹介する。ショウジョウバエのgenome全体の様子が明らかになるにつれて、genome-wideな要因について詳しく解析することが可能となってきた。genome-wideな要因が遺伝子のコドンの3番目の塩基配列、つまりコドン使用の偏りとどのような関係にあるのかについて解析した結果を紹介する。また、遺伝子ファミリーの協調進化機構との関わりについても述べる。- 「トラフショウジョバエにおける重複アミラーゼ遺伝子の分子進化」
猪股伸幸、山崎常行(九大・理院・生物)
ショウジョウバエのアミラーゼはスターチをグルコースとマルトースに分解する消化酵素で、グルコースやマルトース培地よりもスターチ培地で飼育した方が高い活性を示す。つまり、餌を介して環境と直接に相互作用するので、自然選択の標的候補遺伝子の一つとしてキイロショウジョバエを中心に研究されてきた。本研究では、キイロショウジョウバエとは異なる種亜群に属するが、よく似たアミラーゼ遺伝子構造をもつトラフショウジョウバエについて分子進化学的解析を行ったので、その結果について報告する。- 「集団間の遺伝的構造と遺伝的多様性の関連」
二河成男, April Duty, Greg Gibson (North Carolina State University)
Drosophila melanogasterの心臓の拍動をモデルとして、量的形質の多様性に関与する塩基多型座位を明らかにする研究を行っている。現在、野外から得られた2集団、合計200余りの近交系統について、蛹の心拍の速度と乱れを測定し、これらの形質に関与すると予測される3種のセロトニンレセプターをコードするゲノム領域(約13kb)の塩基配列を決定した。集団間の遺伝的構造を明らかにするため,各塩基多型座位についてAMOVAを用いて解析したところ,5-HT1Aの第一イントロン領域にのみ集団間に遺伝的構造があることが明らかになった。さらに、他の領域と比較して、この領域の連鎖不平衡が非常に強いこと、また、ハプロタイプの数が少ないことが明らかになった。他の分子集団遺伝学的解析結果と合わせて,この領域における塩基多型が集団中に維持されるメカニズムについて報告する。- 「トラフショウジョバエの宮古集団における種内変異」
後藤大輝、猪股伸幸、Alfred E. Szmidt、山崎常行(九大・理・生物)
生物進化には、同一種内における遺伝的変異が存在することが大前提である。集団中に存在する遺伝的変異は、中立説では中立突然変異と遺伝的浮動のバランスにより保たれていると考えられている。一方、自然選択説では平衡淘汰等により積極的に集団中に維持されていると考えられている。さらには、集団構造や集団の歴史もまた遺伝的変異のパターンに影響を与えることが知られている。したがって、現在の種内・種間における遺伝的変異のパターンを解析することにより、生物進化におけるこれら要因の影響を明らかにすることができると考えられる。そこで、本研究では遺伝的変異の維持機構を解明するため、トラフショウジョウバエ(Drosophila kikkawai)およびその近縁種における7遺伝子座の塩基配列を決定し、集団遺伝学的解析を行ったので、その結果について報告する。- 「遺伝的組換え荷重のゲノムワイド解析」
高野敏行(国立遺伝学研究所)、河邊昭(国立遺伝学研究所)、猪股伸幸(九州大学)、難波紀子(京都工芸繊維大学)、近藤るみ(お茶の水女子大学)、伊藤雅信(京都工芸繊維大学)、井上寛(大阪外国語大)
遺伝的組換え荷重とは組換えによる適応度の減少を表す言葉で、変異間に適応度に関してのエピスタティックな相互作用があれば、この荷重が存在する。ショウジョウバエ研究から、実際に自然集団中に組換え荷重、連鎖不平衡が存在することが示されている。そこで、組換え荷重の実体を明らかにするため、ゲノムワイドな連鎖不平衡解析を開始した。この最初のステップとして、特に機能的な重複(代理機能性)があることが予想されるショウジョウバエの味覚受容体55遺伝子、嗅覚受容体54遺伝子を解析した。この調査により自然集団中に驚く程の頻度の機能喪失型と思われる変異が存在することも明らかとなった。異なる時期に採集した2集団、総計約400個体、800染色体について、変異のタイピングを行い、2集団でともに有意な連鎖不平衡を示す遺伝子の組合せを見出した。自然集団変異を利用した解析が相互作用の新規検出法と成り得る可能性を示唆している。- 「二倍体生物集団における互助的中立突然変異による分子進化」
飯塚勝(九州歯科大学)、角友之(九州大学)、一ノ瀬元史(筑紫女学園短期大学)
2つのDNA塩基座位に注目するとき、それぞれに突然変異が生じると有害だが、2つの塩基座位に突然変異が存在すると有害性が消失する場合を互助的中立突然変異という。この突然変異による分子進化を示唆する実験的研究が多く報告されているが、その分子進化の機構を、突然変異、自然淘汰、2つの塩基座位間での組み換え、遺伝的浮動の相互作用として定量的に考察する理論的研究は、半数体生物集団の場合を除き、殆ど行われていない。しかしながら、二倍体生物集団においては、自然淘汰に関する優性の有無、2つの塩基座位が遺伝子内に存在するか否かで、互助的中立突然変異による分子進化の様式が大きく変化し得る。ここでは、これらの観点に着目して、二倍体生物集団における互助的中立突然変異による分子進化を定量的に考察する。- 「個体数の変動を伴う遺伝子系図学モデルと集団の遺伝的多様性」
佐野彰紀,舘田英典(九大・院理),清水昭信(名市大・システム自然科学),飯塚勝(九歯大・数学)
集団の個体数が変動する場合の半数体中立モデルにおける遺伝子系図学に関して,次の二つの解析を行った.(1) 個体数の変動が定常確率過程の場合に,相同なk個の遺伝子のcoalescence time Tk の期待値を求めた.また,個体数が一定の場合には相同な二つの遺伝子のcoalescence timeの期待値がその個体数に一致することに基づき,T2の期待値を有効個体数として定義し,これが変動する個体数の調和平均より大きいことを明らかにした.(2) 個体数の変動が決定論的に与えられる場合(bottleneck,expansion,shrinkage)にTkを一般的に表し,Tajima’s D(Tajima, 1989)やFu and Li’s D(Fu and Li, 1993)に与える効果について考察した.特に,個体数が指数関数的に増加する場合に,その増加率が無限大に発散する時のTkの極限値を求めた.また,この時のTajima’s D,Fu and Li’s Dについて,個体数が急速に増加したときに遺伝子の系図の形が近づくとされるstar phylogenyの対応する量との比較を行った.