●日時/8月2日(土) 8:50〜16:00 (1コマ〜3コマ)
●場所/九州大学六本松キャンパス新1号館内 F会場
●種別/特別企画(生物教師・学部生向けの入門コース)
企画責任者/ 嶋田正和 (東大)、矢原徹一(九大)、石川 統 (放送大)
公開ですので、非会員でも聴講可能です。 参加費は無料ですが、もし大会参加費を支払われますと、大会期間中の講演を全て聴けますので、お得です。 参加人数把握のため、参加希望者はメールにてお申し込み下さい。mshimada@balmer.c.u-tokyo.ac.jp
なお、参加者用に用語集(PDFファイル)を用意いたしました。事前にダウンロードして、ご活用下さい。予定講演者の氏名、所属、タイトル
- (1)「もう進化「論」ではない: 事実としての自然淘汰」 8:50〜10:50
講師: 嶋田正和 (東大)長い間、「進化は検証することができないから、科学の土俵に乗らない」と言われてきました。事実に裏打ちされていないくせに、論争だけは百家争鳴ということで、進化「論」と呼ばれてきました。しかし、これは大きな誤解であり、今や自然淘汰は、自然界で、有利/不利に働くことが分かった遺伝的変異(DNA配列)の事例がどんどん増えました。また、自然選択の強さを測定することが可能となりました。このように、たくさんの事例で、自然淘汰による適応進化は揺るぎない事実となったのです。この講義では、まず、自然選択により適応進化が生じるシンプルな論理(ロジック)を紹介します。これは、(i)個体間に変異があること、(ii)その変異が遺伝すること、(iii)その変異に応じて適応度に差が生じること、の3つの条件が揃うと、自然選択は自律的に作用し始める、というものです。その結果、新たな環境への適応進化をもたらす正の自然選択(方向性選択)や、一定の環境条件で適応している野生型形質をそのまま維持する負の自然選択(安定化選択、あるいは純化淘汰)が、それぞれ生じます。ここで、古典的な論争の的である「キリンの首」の進化は、どう考えるべきかにも触れます。
さらに、1980年代には、自然選択の強さを自然界で測定できる理論が開発されました。これは、ちょっと難しく聞こえるかもしれませんが、形質と適応度の共分散(いわゆる 回帰係数です)を測定する手法を使います。これを応用した分析方法によって、選択勾配という推定量として自然選択の強さが測定できます。このようにして、多くの動植物の特徴的な形質に対して、生活史のどのような局面で、どのくらいの強さの自然選択が作用して今見られるような形質になってきたのかが、定量的測定として報告されるようになりました。ここでは、いくつかの代表的な実例を紹介し、どのような事例でその形質にかかる自然選択の強さが測定されているのか、を易しく解説します。
最後に、最近、特に医療分野で大きく注目されているSNP's(1塩基対多型)にも少し触れます。これは、適応度に大きく関係する遺伝的変異として、あるいはそれ自身は中立でも、適応度に関係する遺伝的変異の近傍にあるため連鎖マーカーとして利用できる変異して、進化生物学の研究におけるその重要性を指摘したいと思います。
- (2)「千鳥足の分子進化: 中立理論の示すもの」 11:00〜13:00
講師: 斉藤成也 (国立遺伝学研究所)木村資生による分子進化の中立説の提唱(1968年)から35年。いまや中立 論と呼ぶべき分子進化の学問体系は、高校生物の教科書(新学習指導要領の「生物 II 」)に登場するほどになったそうです。そこでここでは、中立論の基礎をなす遺伝的浮動が どのようなものかを解説し、そこから中立論(基本的に突然変異+遺伝的浮動+純化淘汰が中心)が何を予測したか、予測の中でも実用性や影響が大きかった分子時計とはどのようなものか、理論の予測はどのような実例で検証されたか、などをやさしく解説します。高校生に教える範囲を越える事が多いかとは思いますが、同義置換と非同義置換,正の自然淘汰と負の自然淘汰(純化淘汰),偽遺伝子やがらくたDNAの進化,中立進化が表現型進化に与える影響,非中立進化の例、などについてご説明します。- (3)「DNAが語る生物の進化史: 分子系統解析」 14:00〜16:00
講師: 村上哲明 (京大)DNAの配列情報は、生物の系統関係を見るのに非常に有効であることが分かってきました。従来、もっぱら形態形質に基づいて系統関係を類推してきたのですが、形態を見るときには名人芸的な「心眼」が 必要だったりしました。逆にいうと、これは主観的な情報に基づいて系統解析が行われていたともいえます。DNA情報なら、このような名人芸的な「心眼」がなくても、誰にでも同じ技術で解析が可能であり、そして誰がやっても同じ解析結果ができます。また、DNAレベルの形質は大部分が中立的な変異のため、適応的な形質も多数含まれる形態情報よりも収斂が起こりにくいと考えられます。さらに、得られる情報量もDNAの配列情報の方がはるかに多いです。その結果、DNAの配列情報の方がより正しい系統樹を与えてくれることが多いのです。分子系統解析は、今や進化生物学のさまざまな分野で広く用いられるようになりました。ここでは、分子系統解析は、なぜ有効なのか、どのような理屈の上に成り立っているか、具体的にどのようにして個々の生物のDNA配列情報を得て分子系統樹を作り上げるのか、そしてどのような成果が得られつつあるのか、などを易しく解説します。