要旨 |
集団の個体数が変動する場合の半数体中立モデルにおける遺伝子系図学に関して,次の二つの解析を行った.(1) 個体数の変動が定常確率過程の場合に,相同なk個の遺伝子のcoalescence time Tk の期待値を求めた.また,個体数が一定の場合には相同な二つの遺伝子のcoalescence timeの期待値がその個体数に一致することに基づき,T2の期待値を有効個体数として定義し,これが変動する個体数の調和平均より大きいことを明らかにした.(2) 個体数の変動が決定論的に与えられる場合(bottleneck,expansion,shrinkage)にTkを一般的に表し,Tajima’s D(Tajima, 1989)やFu and Li’s D(Fu and Li, 1993)に与える効果について考察した.特に,個体数が指数関数的に増加する場合に,その増加率が無限大に発散する時のTkの極限値を求めた.また,この時のTajima’s D,Fu and Li’s Dについて,個体数が急速に増加したときに遺伝子の系図の形が近づくとされるstar phylogenyの対応する量との比較を行った.
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