概 要 | |
企画者: | 岡田泰和 (東京都立大学) |
交尾器や産卵管などの一次性形質や武器や装飾などの二次的形質の進化は当該器官のみならず,他器官や行動,ときに性を超えた雌雄の遺伝相関によって広い生態学的波及効果を持ちうる.そして繁殖形質の進化は内的自然増加率など,より高次の階層にも影響を与え,個体群の成長率や絶滅率にまで影響を与えることが指摘され始めている.シンポジウムでは遺伝子・行動・形態から個体群への影響まで多様な研究事例をご紹介いただき,進化的視点から性的形質の階層を超えた波及効果を考察する. 講演者 1. 山道真人(クイーンズランド大) 2. 香月(岡田)雅子(東大) 3. 高見泰興(神戸大) 4. 田中健太郎(都立大) 5. 辻かおる(スタンフォード大) |
S14-1
性的形質の迅速な進化が多種共存に及ぼす影響
山道真人1,2
1クイーンズランド大学
2長崎大学
2長崎大学
性的形質にも種内の遺伝的変異が存在するため、強い選択圧がかかることで迅速に進化し、個体群・群集動態に影響することが明らかになってきた。そのため、競争排除則にも関わらずなぜこれほど多くの種が存在するのか、という群集生態学の「プランクトンのパラドックス」を解決するために、性的形質研究が貢献できる可能性がある。例えば、種間で繁殖的形質置換が起こって繁殖干渉を弱めると、群集レベルの正の頻度依存性を緩和することになる。さらに、種内の密度依存的な性選択・性的対立によって、個体数が多い種で個体群増殖よりも自らの繁殖成功を優先する「利己的」個体が増えるようになると、群集内の多数派の種は「種内適応荷重」によって増殖率を減らし、群集レベルの負の頻度依存性が多種共存を安定化させることになる。このような性的形質の生態-進化フィードバックが捕食者-被食者系・相利共生系の群集動態に与える影響についても議論したい。
S14-2
性的対立の存在が捕食圧下でのメスの適応度増加をもたらす
香月雅子1
1東大・学振RPD
昆虫のオスの持つ発達した大顎などの性形質は、性選択を通してサイズ増加の方向へ進化する一方、自然選択はその進化を制限する。オオツノコクヌストモドキのオスも発達した大顎を持ち、大きな大顎を持つオスが闘争に有利である。大顎の大きなオスは、大顎の保持により前半身が大きくなり、腹部は小さくなる。本種では、体型に関する遺伝的機構を雌雄で共有しているため、大顎の大きく腹部の小さなオスの娘も腹部が小さく、産子数が少ない。つまり、適応度に対して雌雄間で負の遺伝相関が存在する。この負の遺伝相関の存在により、捕食者の存在下では、雌雄の性形質や適応度だけでなく捕食回避に関わる形質など、予想外の選択が起こることが明らかとなったので紹介する。そして、性形質に関わる両性または性特異的な選択とその生態学的波及効果について議論したい。
S14-3
性的対立をもたらす交尾器形態が野生個体群動態と分布域形成におよぼすインパクト
高見泰興1
1神戸大・人間発達環境
雌雄の交尾器は性的対立の主戦場の一つである.アオオサムシは釣り針状の雄交尾器と,それに対応する雌交尾器を持ち,両者は交尾の際に機械的に結合する.実験交尾の結果,長い雄交尾器は産卵活性を高め卵廃棄を誘発するが,長い雌交尾器はそれに対抗的であることがわかった.このような性的対立は,雌の繁殖力を通じて個体群動態に影響すると予測される.個体群間比較の結果,予測通り,より操作的な雄交尾器とより対抗的でない雌交尾器を持つ個体群は,有効集団サイズが小さいことが明らかになった.また,性的対立による繁殖力の低下は個体群の拡大や維持を妨げるため,厳しい環境には繁殖力が高い個体群が定着しやすいと予測される.予測通り,小さい島や分布境界域に生息する集団は,雄交尾器よりも相対的に長い対抗的な雌交尾器を持っていた.これらの結果は,性的対立が野外の個体群動態や分布域形成において重要な役割を果たしていることを示唆する.
S14-4
ショウジョウバエ交尾器進化にみられる性選択と自然選択の相互作用
田中 健太郎1
1東京都立大学
交尾を介して受精をおこなう生物の場合、近縁種同士であっても交尾器形態が顕著に異なるケースはよくある。他の外部形態に比べ交尾器が速く進化するのは、交尾器が交尾を巡る性選択の最たる標的であるためという考えが広く受け入れられている。その一方、性選択以外の自然選択も交尾器形態進化に関わっている例も少しずつ報告されている。本発表では、ショウジョウバエの交尾器形態進化にみられる性選択以外の様々な選択圧について紹介し、それらと性選択がもたらす相互作用がどのように交尾器形態の急速な進化に関わってきたのか考えたい。
S14-5
性的二型の進化と多種に及ぼす波及効果
辻かおる1
1スタンフォード大学
動物や植物で広くみられる性的二型は、雌雄にかかる選択圧が違うために、性別により異なる適応を遂げることを示唆している。この選択圧には、雄間競争のような同種内での相互作用だけでなく、多種との異種間相互作用が関与していると考えられるが、 性的二型と他種との関係を実際に定量した例は少ない。本発表では、雄花を食害する昆虫に雌花を食べさせると死亡するという発見から始まった、雌雄異株ヒサカキ属植物の花の性的二型が送粉性昆虫や花食性昆虫、花蜜内で増殖する細菌や酵母などの多様な分類群にあたえる波及効果の研究を紹介する。また、送粉性昆虫が花の性的二型をどのように進化させるかについても最近得られた結果を交えて考察したい。
S14-6
性的形質の進化とその生態的波及効果
岡田泰和1
1東京都立大学理学部
性を持つ生物では,雌雄で形態や行動・生態が大きく異なる場合がある. 交尾器や産卵管などの一次性形質や武器や装飾などの二次的形質の進化は当該器官のみならず,他器官や行動,ときに性を超えた雌雄の遺伝相関によって広い生態学的波及効果を持ちうる.そして繁殖形質の進化は内的自然増加率など,より高次の階層にも影響を与え,個体群の成長率や絶滅率にまで影響を与えることが指摘され始めている.シンポジウムでは遺伝子・行動・形態から個体群への影響まで多様な研究事例をご紹介いただき,進化的視点から性的形質の階層を超えた波及効果を考察する.