概 要 |
企画者: | 岡田泰和、立木佑弥、野澤昌文 (東京都立大学) |
近年、大規模データの蓄積と計算機の爆発的進歩により、様々な生物学研究に実験だけでなく計算機を用いた手法(シミュレーション、機械学習など)が取り入れられるようになってきた。しかし、多くの研究者からするとその解析手法はいまだブラックボックスであり、自身の研究に取り入れるのは容易ではない。 そこで、今大会の夏の学校では、計算機を用いた最新の手法を取り入れて形態や機能の進化に関する研究を大きく進展させている3人の気鋭の研究者をお招きし、研究成果をご紹介いただくことにした。その際、具体的な解析手法の紹介や実装方法についても解説していただく。本企画を通じて、一人でも多くの進化学研究者が計算機を用いたアプローチを自身の研究に取り入れるきっかけとなることを願う。
講演予定者: 坂下美咲(東京理科大):魚の骨の形成 藤本仰一(大阪大):植物や花の形態 鈴木麗璽(名古屋大):人工生命 |
S15-1
比較形態観察に基づいた魚類椎骨の形成を説明する数理モデルの構築
坂下美咲1
1東京理科大学 理工学部 応用生物科学科
本研究では硬骨魚類の椎骨を対象に,骨の形がつくられる仕組みの解明を目指している.魚類の椎骨は主に2層の骨から成り,内側はどの種も共通して砂時計型だが,外側は種間で異なる側面構造を示す.これまでに椎骨の比較形態観察で,頻繁に胴体を曲げて泳ぐ魚ほど側面の骨が密着し,厚い板状構造で砂時計型の骨を支えているとわかった.さらに先行研究より,骨が外から力を受けると,骨をつくる細胞が活発になることから,魚類椎骨の形の違いは外力により決まると考えられた.この仮説を確かめるため,トポロジー最適化という設計理論を使って,外力に耐える構造を生成する数理モデルを構築した.様々な力を加え最適化を試したところ,椎骨を左右に曲げる力で回遊魚の椎骨に見られる厚板構造を生成できた.また,別の力を加えることで複数種の椎骨の形を再現できた.結果から魚類椎骨の側面構造は,個体の遊泳法に適応して形づくられると推測される.
S15-2
細胞から個体に至る動植物の形を定量し、生まれる仕組みを探る数理
藤本 仰一1
1大阪大学理学研究科
生き物の形は、再現性高く発生するとともに、時に確率的な揺らぎを生み、進化を通じて多様化する。この講演の前半では、形の数理的性質を解析する方法を、実装方法も含めて紹介する。細胞の形(2次元・3次元)、細胞の配置、器官の形、器官の配置(確率性や対称性)、それぞれに関して、動植物双方(コケ植物、被子植物、刺胞動物、昆虫、ヒト、他)を用いた研究例を説明する。器官の形では、種を超えた共通性を見出す方法(スケーリング)も紹介する。後半は、これらの形を発生させる仕組みを予測できる数理モデルを紹介する。幾何学的な仕組み、及び、力学的な仕組みのモデリングを説明する。一部の実測した定量データを数理モデルへ入力して、他の定量データを再現することで、背後にある仕組み(形の共通性を生む発生過程の拘束など)を予測し、さらには、この予測を生物実験で検証できることを示す。
S15-3
仮想生物の進化で考えるエコエボデボ
鈴木麗璽1
1名古屋大学 大学院情報学研究科
仮想物理空間上で生物の形と動きを同時に進化させる仮想生物の進化は,人工生命研究の初期から進展し続ける重要な方法論の一つである.現在では,様々な物理構造を反映したり,柔らかな物体を用いたり,多数の異種・同種の個体を同時に存在させたりして,自由度の高い環境が表現可能になっている.我々は,この手法の特徴である,生物が物理的な実体を持つことを活かし,生態・進化・発生という時間や空間スケールの異なる生物集団の過程間の相互作用の理解に取り組んでいる.本講演では,3次元ブロック型被食・捕食仮想生物の共進化と個体数変動,2次元多細胞生物の形態発生(変態)と行動の進化,2次元ブロック設置生物によるニッチ構築の進化と生態継承,物理衝突で音を発する3次元ブロック型生物における音響相互作用の進化等に関する取り組みを紹介し,これらのアプローチによる進化の理解への貢献について考える機会としたい.