ポスターセッション1
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P1-1
食肉目および鯨偶蹄目に起きたアミノ酸トランスポーターslc7a3遺伝子の急速な重複と多様化
中村遥奈1, 二階堂雅人1
1東京工業大学生命理工学院
遺伝子ファミリーにおけるコピー数の多様化は生物進化において重要な役割を持つことが知られている。本研究では、アミノ酸の輸送に関わる膜タンパク質をコードするアミノ酸トランスポーター遺伝子の一つ、slc7a3遺伝子と類似した配列を持つslc7a3-like遺伝子に着目し、広範な哺乳類のアセンブリゲノム配列に対し、ホモロジー検索を行なった。その結果、食肉目でのみイントロンが抜け落ちたslc7a3プロセス型遺伝子がまとまって存在する領域があることが確認され、そのうち10個程度が機能遺伝子と判定された。また、slc7a3-like遺伝子は鯨偶蹄目のみで遺伝子重複を経験し、コピー数が増加していることが分かった。このアミノ酸トランスポーター遺伝子の多様化が生物学的にどのような役割を担っているのかについて、哺乳類における胎盤構造の多様化と関連づけて議論したい。
P1-2
A phylogeny-free evolutionary probability method for testing neutrality at amino acid and nucleotide sites
Yujia Cai1, Koichiro Tamura1,2
1Department of Biological Sciences, Tokyo Metropolitan University
2Research Center for Genomics and Bioinformatics, Tokyo Metropolitan University
2Research Center for Genomics and Bioinformatics, Tokyo Metropolitan University
A fundamental issue in evolutionary biology is to know how changes in genotypes cause changes in phenotypes. In recent years the genome-wide association studies (GWAS) have been developed to solve this issue. However, as a nucleotide or amino acid is fixed in population quickly by natural selection, the applicability of the variation-dependent GWAS is limited. In this context, the variant-independent evolutionary probability (EP) method was developed. However, the EP method requires a guide phylogenetic tree, which is not always reliably estimable.
This study proposes a new evolutionary probability method, named EPuCov (evolutionary probability using the covariance), that does not require a guide tree. Using computer simulations and empirical data analyses, we found that the EPuCov method shows a better performance to identify non-neutral amino acid substitutions with ten times faster computation time than the original EP method. Our computer program implements the EPuCov method for both amino acid and nucleotide sequence data, providing a user-friendly graphical user interface.
P1-3
タンパク質ドメイン構造の比較解析によって明らかとなった Clp1ファミリータンパク質の多様性
齋藤 元文1,2, 猪瀬 礼璃菜1, 佐藤 朝子1, 冨田 勝1,2, 金井 昭夫1,2
1慶大・先端生命研
2慶大院・政策メディア
2慶大院・政策メディア
真核生物のClp1は RNA鎖の5'末端をリン酸化するポリヌクレオチドキナーゼ (PNK)として, 前駆体tRNAスプライシングやmRNA 3'末端の形成に関与する. さらに, Clp1ファミリータンパク質として, 真核生物にはNol9/Grc3が存在し, 前駆体rRNAのプロセシングを行う. 本研究ではこれらのタンパク質が進化の過程でどのように多様化してきたのか明らかにするため, 網羅的なタンパク質ドメイン構造の比較解析を行った. その結果, ほとんどのClp1は3つのドメイン (N末端, PNK, C末端ドメイン)で構成されているのに対し, 原生生物 (AlveolataやEuglenozoa)ではPNKのみ, またはN末端とPNKドメインから構成されるより単純なタンパク質であった. さらに, 2つのドメインから成る原生生物 (Trypanosoma)のClp1相同遺伝子に関して, 大腸菌で組換え体タンパク質を作成したところRNAの5'末端をリン酸化する活性を検出した. 以上より, Clp1ファミリータンパク質は, 進化の過程でドメインを獲得することで多様化したことが示唆された.
P1-4
遺伝子別読み枠という「無用の用」:その進化学的意義に迫る
山内 駿1, 岩崎 渉1,2
1東大・院理
2東大・院新領域
2東大・院新領域
ゲノムは広汎に発現することが知られており、遺伝子コード領域を5通りにずらした読み枠(「別読み枠」)からもペプチドが翻訳される。しかし、それらの進化的意義はよくわかっていない。我々は細菌ゲノムの大規模解析を行い、一部の別読み枠で終止コドンが抑制されペプチドが生じやすいことを予測し、前回大会で報告した。これらのペプチドが近年液-液相分離などの生物物理学的観点から注目を集める天然変性傾向を強く示すことから、我々はこの発見が原核生物における新たな遺伝情報の流れを示唆すると考えた。本発表では、この説を支持する新たな根拠として発現解析や遺伝暗号の寄与を示す。また我々は現在、別読み枠の機能についてさらに研究を進めている。今回、一部の別読み枠には三ドメインに共通して有意に多くの潜在的機能配列が存在するという興味深い結果を得たので、これを踏まえて新規遺伝子の誕生に別読み枠が果たす役割についても考察する。
P1-5
ヒメミカヅキモ種内にみられる大規模なゲノムサイズ変異の進化的起源
川口也和子1, ⼟⾦勇樹1, ⽥中啓介1, 太治輝昭1, 豊⽥敦1, ⻄⼭智明1, 関本弘之1, ⼟松隆志1
1千葉⼤・院・理
2東大・院・理
3東京農⼤・⽣物資源ゲノム解析セ
4東京農⼤・⽣命科学
5遺伝研・⽣命情報研究セ
6⾦沢⼤・学際セ
7⽇本⼥⼦⼤・理・物質
2東大・院・理
3東京農⼤・⽣物資源ゲノム解析セ
4東京農⼤・⽣命科学
5遺伝研・⽣命情報研究セ
6⾦沢⼤・学際セ
7⽇本⼥⼦⼤・理・物質
陸上植物に最も近縁なホシミドロ目に属するヒメミカヅキモ(Closterium peracerosum-strigosum-littorale complex)には、種内に2倍以上の連続的なゲノムサイズ変異が存在する。この大規模なゲノムサイズ変異の起源を明らかにするために、ゲノムサイズが大きく異なる6系統を用いて全ゲノム配列の比較解析を行なった。その結果、ゲノムサイズ変異は遺伝子重複量に相関し、その由来の多くは種内で少なくとも4度生じた全ゲノム規模の重複にあることが明らかになった。さらに、うち1系統は由来の異なる3系統のゲノムをもつ異質倍数体であると判明した。加えて、全ゲノム規模の重複を共有する極めて近縁な2系統間にも約30%の遺伝子にコピー数変異がみられることが分かった。このことから本種内のゲノムサイズ変異は、大規模な重複とセグメンタルな重複や欠失に由来することが明らかとなった。今後はゲノムサイズ変異の遺伝様式の解析や系統間の遺伝子発現量比較により、本種の柔軟なゲノムサイズ変化を可能にする要因を探る予定である。
P1-6
ササコナフキツノアブラムシと二種の細胞内共生細菌が織りなす複合共生系:共生細菌の機能・局在解析
頼本隼汰1,2, 服部充3, 重信秀治1,2
1総合研究大学院大学・生命科学研究科・基礎生物学専攻
2基礎生物学研究所・進化ゲノミクス研究室
3長崎大学・水産・環境科学総合研究科(環境)
2基礎生物学研究所・進化ゲノミクス研究室
3長崎大学・水産・環境科学総合研究科(環境)
半翅目昆虫アブラムシとその細胞内共生細菌ブフネラは、お互い相手なしでは生存できないほど密接な絶対共生の関係にある。また、アブラムシではブフネラに加えて他種の細菌も共感染している例がある。しかし、同一宿主内に複数種の共生細菌が存在する「複合共生系」を支える分子機構や進化過程はわかっていない。私たちは、ササコナフキツノアブラムシには、ブフネラに加え別種の細菌(共生細菌Xとする)が共感染していることを発見した。これらの共生細菌の全長ゲノムを明らかにし遺伝子レパートリを比較したところ、ブフネラと共生細菌Xが協調して宿主に必須な栄養素を合成していることがわかった。また、ブフネラと共生細菌Xは宿主の共生器官に内包されており、胚発生過程で母親から次世代へ垂直伝播していた。これらのことから、ブフネラに加えて共生細菌Xもササコナフキツノアブラムシと密接な共生関係を築いていることが考えられる。
P1-7
系統分類情報を利用したオーソログデータセット作成法の開発
渡邊知輝1, 堀池徳祐2
1岐阜大院・連農
2静岡大・農
2静岡大・農
種の系統推定のためには種分岐により生じたホモログであるオーソログのみを含み、正確な種の系統推定を妨げるアウトパラログを含まないデータセットの作成が必要である。当研究室の先行研究により「Ortholog Finder」が開発され、隠れアウトパラログ(遺伝子重複後に一方の遺伝子が欠失したアウトパラログ)の除去が初めて可能となったが、アルゴリズム上の制約が残されていた。本研究ではOrtholog Finderを改良し、より多くの分類情報を活用することで、さらに多くの隠れアウトパラログを除去することに成功した。また配列進化シミュレーションプログラムを用いて隠れアウトパラログを混入させた配列データを作成し性能評価を行った。その結果、改良版Ortholog Finderは既存のオーソログデータセット作成プログラムよりも正確なオーソログ推定が可能であり、より正確な種の系統推定が可能であることが示された。
P1-8
Author are not specified, 1, 1, 2, 1
Affiliations are not specified
準備中
P1-9
全ゲノム配列データを用いたユーラシア産ハツカネズミMus musculusの系統解析
藤原 一道1, 河合 洋介2, 森脇 和郎3,4, 高田 豊行4, 城石 俊彦4, 斎藤 成也3, 鈴木 仁5, 長田 直樹1
1北海道大学大学院情報科学院
2国立国際医療研究センター
3国立遺伝学研究所
4理化学研究所バイオリソース研究センター
5北海道大学地球環境科学研究院
2国立国際医療研究センター
3国立遺伝学研究所
4理化学研究所バイオリソース研究センター
5北海道大学地球環境科学研究院
ハツカネズミ(Mus musculus)はヒトの農耕の歴史と共に世界中に拡散していったと考えられている。この種はインド亜大陸を起源として約50万年以上前に3つの亜種に分岐したと示唆されており、現在では南アジア亜種 (M. m. castaneus: CAS) 、北ユーラシア亜種 (M. m. musculus: MUS) 、そして西ヨーロッパ亜種 (M. m. domesticus: DOM) の3亜種が世界中に広く分布している。実験系統のハツカネズミの遺伝的背景や系統関係は多くの研究者によって解明されているが、野生のハツカネズミのそれらは、これまで限定的なSNPやミトコンドリアゲノムの解析が行われたが、未だ十分に解明されていない。本研究ではハツカネズミの野生個体について、新規94個体の全ゲノム配列を用いてその集団動態、系統関係や遺伝的背景を明らかにした。このうち、東アジアに生息する個体は多くの地域においてCASとMUSの交雑個体が広範囲に分布している事が分かった。さらに、新たに判明した3亜種の系統関係もここで報告したい。
P1-10
卵巣で発現するヤモリ類特有の内在性レトロウイルス由来遺伝子の研究
北尾晃一1, 宮沢孝幸1
1京都大学ウイルス・再生医科学研究所
内在性レトロウイルス(ERV)は、過去に生殖細胞に感染し宿主ゲノムの一部となったレトロウイルスであり、ときに系統特異的な表現型をもたらす。例えば、胎盤での栄養膜細胞融合を担うsyncytinは、ウイルスと標的細胞の膜融合を担うenv遺伝子に由来する。最近、2種のヤモリゲノムから保存されたenv遺伝子が同定され、我々はこれがニホンヤモリの卵巣で特異的に発現していることを見出しovelope-1と呼称している。しかし、その機能は依然明らかでない。今回、我々はヤモリ培養細胞を用いた実験を行った。膜局在や糖鎖修飾などEnvタンパク質の特徴を確認した一方で、Ovelope-1に膜融合活性はみられなかった。また、ヤモリ6種のDNAを調べた結果、ovelope-1をもたない種を発見した。この結果から、ovelope-1はヤモリ類の中で差異がある卵巣機能に関与することが示唆された。
P1-11
基底膜の起源―単細胞ホロゾアのラミニン様遺伝子の機能解析
傳保聖太郎1, 菅裕2
1県立広島大学 総合学術研究科
2県立広島大学 生命環境
2県立広島大学 生命環境
カプサスポラは動物に近縁な単細胞生物(単細胞ホロゾア)の一種である。カプサスポラは多細胞性の群体ステージを含む生活環を持ち、また動物において多細胞性を構築する上で必須と考えられる遺伝子と相同性のある遺伝子を多く持っている。これらの遺伝子の機能を明らかにできれば、単細胞生物が持つこのような「多細胞的な遺伝子」がどのような機能転換を経て多細胞性の獲得に貢献したのか知ることが可能となる。そこで我々は細胞接着因子に注目し、動物において基底膜を構成するタンパク質であるラミニンと相同性のあるカプサスポラの遺伝子について解析した。これまでの解析から、カプサスポラのラミニン様遺伝子は、環境条件の変動に伴い生活環を能動的に変化させるための道具として使われているのではないかと考えている。本発表ではドメイン欠失解析と生活ステージに着目したタンパク質解析の結果を報告する。
P1-12
性決定遺伝子dsxの分子進化および寄生蜂性決定プロセスの探索
大畑裕太1, 杉本貴史2, 田上陽介1
1岐阜大院・生物環境科学
2農研機構
2農研機構
ハチ目昆虫の性決定モデルは多様なものが混在するが、受精卵からメスが発生する点では共通している。一方、この共通部分を、細胞内共生細菌Wolbachia, Rickettsiaが感染・操作することで、未受精卵からメスが生まれるように改変される現象(PI=Parthenogenesis Induction)が寄生蜂類を中心に多く観察されている。
我々は、性決定とPI現象の関係を解明するために、PI誘導細菌が感染している複数の寄生蜂類から、性決定の基底因子であるdoublesex(dsx)遺伝子およびその上流にある性決定遺伝子群のホモログを探索して性決定モデルを予測した。その後、dsxの中でも保存性が高い2ドメインを様々な昆虫種と比較解析したところ、DNA結合に関与するDMドメインで大きな変異の加速が見られた。その背景には、PI誘導細菌による性決定機構の撹乱が大きく影響している可能性が考えられる。
P1-13
ショウジョウバエの種特異的な求愛歌選好性の背景にある聴覚情報処理の進化
大橋 拓朗1, 石川 由希1, 粟崎 健2, 蘇 馬賦1,3, 上川内 あづさ1
1名古屋大学 理学研究科
2杏林大学 医学部
3名古屋大学 高等研究院
2杏林大学 医学部
3名古屋大学 高等研究院
音は、動物にとって重要な情報伝達手段である。動物は音シグナルを分化させ、同種のシグナルに選択的に応答する。これは音情報を処理する神経機構もまた種間で分化していることを示しているが、その実体はよく分かっていない。
音情報処理の分化の実体に迫るため、私達は種間で求愛歌を分化させたショウジョウバエ種に着目した。先行研究において、私達は「同種とは異なる求愛歌への神経応答を抑制する機構」が聴覚受容ニューロン直下のニューロン(2次ニューロン)においてすでに存在することを示した。本研究では、この2次ニューロンにおける情報処理が種間で分化している可能性を検討するため、求愛歌に対する神経応答を種間比較した。その結果、2次ニューロンの応答特性は種間で異なっており、その違いは求愛歌の分化の方向性と一致していた。このことは、音の情報処理の分化が、その機構の初期段階においてすでに存在していることを示している。
P1-14
トゲウオ雑種集団にみられる異種ゲノムの排除に対する生殖隔離の機能
細木拓也1,2, 森誠一3, 西田翔太郎3, 久米学4, 永野惇5, 神部飛雄1,2, 柿岡涼6, 中本健太7, 飯野佑樹7, 他4名1,2,7,8
1国立遺伝学研究所
2総合研究大学院大学
3岐阜協立大学
4京都大学
5龍谷大学
6琉球大学
7東京大学
8鹿児島大学
2総合研究大学院大学
3岐阜協立大学
4京都大学
5龍谷大学
6琉球大学
7東京大学
8鹿児島大学
種分化が完成する前に交雑を起こす例が多々みられる。では、どのような要因が交雑の帰結を決定するのだろうか?我々は、2011年の東日本大震災によって形成された、イトヨ Gasterosteus aculeatus とニホンイトヨ G. nipponicus の雑種集団で、9年間にわたるゲノムの変化を調べることで、これを追求している。集団遺伝解析の結果、2011年に交雑が起こり、その後、イトヨへの戻し交配が進行していることが判明した。とりわけ、性的隔離と雑種不妊に関わるネオ性染色体と祖先染色体上では、常染色体に比べてニホンイトヨのアリルの排除が速いことが示唆された。同様の傾向は、地理的隔離に関わる量的形質遺伝子を持つ常染色体にも見られた。これらの結果から、複数の生殖隔離機構がニホンイトヨのゲノムの排除に寄与していることが示唆された。他の雑種集団と比較を行うことで、種間交雑の運命の予測につながると考えられる。
P1-15
カオジロショウジョウバエ類における生殖器形態の進化:種間雑種を用いた遺伝学的解析
小沼 萌1, 澤村 京一2
1筑波大・院生命地球・生物
2筑波大・生命環境
2筑波大・生命環境
動物の生殖器は進化速度がはやく、形態が多様である。生殖器の形態進化を理解するには、近縁種間における比較だけでなく、種間で共有されている構造やそれらの遺伝様式を明らかにする必要がある。カオジロショウジョウバエ類4種は生殖器形態に種特異性がみられ、その構造は雌雄間でよく対応している。例えば、オスのエデアグスには種特異的な突起があり、メスは生殖管内に襞状構造や硬化領域などを有している。そしてこれらは生殖器のカップリング時に互いに接触する。このように、カオジロショウジョウバエ類の種特異的な構造は、メスが同種オスの生殖器を受け止めるために進化した結果できたものと考えられる。そこで、種間交配で得られた雑種第一代の雌雄の生殖器形態を観察した。本講演では、オスのエデアグスにある突起とメスの生殖管にある受入れ構造の対応などについて、遺伝学的な観点から議論する。
P1-16
近縁種と大きく異なる体サイズを獲得した線虫における転移因子の影響
河原 数馬1, 稲田 垂穂1, 田中 龍聖2, Mehmet Dayi2, 菊地 泰生2, 杉本 亜砂子1, 河田 雅圭1
1東北大学大学院生命科学研究科
2宮崎大学医学部
2宮崎大学医学部
近年発見された線虫Caenorhabditis inopinataは姉妹種のC. elegansと複数の形質が大きく異なっており、このような大きな進化を起こす要因は未だ解明されていない。本種のゲノムの特徴に転移因子(TE)の増加がある。TEとは自律的に複製・転位する塩基配列であり、近傍遺伝子の発現を変化させる場合があることが知られている。本研究では本種で顕著に変化した体サイズに着目し、C. inopinataとC. elegansで体サイズ成長率が異なる発生段階における種間の遺伝子発現量の違いとTEの有無の関係を調べた。その結果、遺伝子近傍やイントロンにC. inopinataでTEが挿入している遺伝子群においてC. inopinataの方が発現が高い遺伝子の割合いが有意に大きかった。また、それらにはsma-2やdpy-2などの体サイズに関与する遺伝子が含まれていた。
P1-17
Author are not specified, 2, 3, 1,4, 5, 2, 1,4
Affiliations are not specified
準備中
P1-18
ヘビからカエルへの遺伝子水平伝播:伝播経路の解明
神林千晶1, 掛橋竜祐1, 大島一彦1, 熊澤慶伯2, 森 哲3, 太田英利4, 細 将貴5, 柳田哲矢6, 佐藤 宏6, 倉林 敦1
1長浜バイオ大・バイオサイエンス
2名市大・理
3京都大・理
4兵県大・自然研
5早稲田大・教育
6山口大・獣医
2名市大・理
3京都大・理
4兵県大・自然研
5早稲田大・教育
6山口大・獣医
我々は、あるレトロトランスポゾン(以下TE-X)が、様々な地域においてヘビ類からカエル類へと何度も独立に水平伝播していることを発見した。水平伝播の発生頻度は地域ごとに異なり、特にマダガスカルは本現象のホットスポットであった。この水平伝播は捕食者から被食者へという奇妙な方向に生じていたことから、仲介生物の存在が想定された。そこで日本およびマダガスカルのヘビ類とカエル類を対象として寄生虫を調査したところ、3つの門に及ぶ寄生虫からTE-Xが検出された。特に、カエルに寄生していたツツガムシや線虫から見出されたTE-Xはヘビ類に内在するものと非常に高い類似性を示した。これらの結果は、ヘビ類からカエル類へTE-Xを運搬したのが寄生虫であることを強く示唆する。さらに、陽性種の割合は日本よりマダガスカルで有意に高く、TE-X水平伝播のホットスポットではより多様な寄生虫が伝播を仲介していることが示された。
P1-19
ヒグマはいつ,北海道に渡来した?-地史,ミトコンドリアDNA,全ゲノム解析の融合による渡来史の解明-
遠藤優1, 長田直樹1, 間野勉2, 増田隆一1
1北海道大学
2北海道立総合研究機構
2北海道立総合研究機構
北海道のヒグマUrsus arctosは,ミトコンドリアDNA(mtDNA)分析により,3つのmtDNA系統が道内3地域(道南,道央,道東)に異所的に分布することが明らかになっている.これらの3系統は大陸において異なる時期に分岐し,約20-1万年前の期間,3回にわたって北海道に渡来したと考えられる.本研究では北海道のヒグマ6個体の全ゲノム解析により,3回渡来説を検証した.PSMCとfastsimcoal2による個体群動態推定では,すべての個体が約13-11万年前の間氷期(MIS 5e)以前の同時期に北海道に渡来したと考えられるパターンが示された.一方,ƒ4統計では,北海道の系統と間氷期後に大陸で拡散した系統の間で遺伝的交流があったことが示された.これらの結果から,間氷期以前に北海道へ渡来した系統と,その後渡来した系統との間で交雑による遺伝子流動が起こったことで,同じ遺伝的特徴を共有したと考えられる.北海道のヒグマのゲノムには,個体群の分断と交流の複雑な歴史が反映されているといえる.
P1-20
遠縁な種に対して有効な焼きなまし法による分子系統樹構築法の提案
小野寺航1, 朝日透2,3, 澤村直哉3,4
1早稲田大学先進理工学研究科
2早稲田大学理工学術院
3早稲田大学 ナノ・ライフ創新機構
4早稲田大学 グリーン・コンピューティング・システム研究機構
2早稲田大学理工学術院
3早稲田大学 ナノ・ライフ創新機構
4早稲田大学 グリーン・コンピューティング・システム研究機構
遺伝子の進化的な多様性を理解するためには分子系統樹が必要であるが、一般的に類似性の低い配列セットから正確な系統樹を推定することは難しい。この問題に対し、配列セットを1つのクラスターとみなして、二分割を繰り返すことで系統樹を構築するtop-downな手続きが有効である。この手続きの下では、n種から成る配列セットを二分割する総組合せ数は2n-2個で表されるため、容易に組合せ爆発が起きる。そのため先行研究では二分割を近似的に求めているが、現状その二分割が最適であるかの保証はない。本研究では組合せ最適化問題に特化した疑似量子コンピュータの下で焼きなまし法を用いて、より最適に近い二分割を探索した。その二分割を基に系統樹を構築すると、近隣結合法/最尤法に対して類似性が低い配列セットで精度高く構築できた。また提案手法が有効に働くケースを実データにて確認し、類似性の低い配列セットに対する優位性を論じる。
P1-21
RNAの構造揺らぎと進化可能性の関係の探索
前田祐太朗1, 水内良1, 市橋伯一1,2,3
1東京大学大学院総合文化研究科
2東京大学先進科学研究機構
3生物普遍性研究機構
2東京大学先進科学研究機構
3生物普遍性研究機構
RNAは分子内で高次構造を形成することが知られており、その構造は流動的に変化し、構造の揺らぎが生じる。これまで揺らぎに関する研究では、揺らぎの大きな表現型が進化しやすいという傾向が示されているが、進化と揺らぎの関係を実験的に検証した例は少ない。私たちはこれまでRNAの進化実験を行っており、この進化過程のRNAから揺らぎと表現型を求め、揺らぎと進化の関係を探ろうとしている。
私たちが行った進化実験で得られたRNAの揺らぎを測定すると、進化の進行とともに揺らぎが減少する傾向がみられた。次にこのRNAの有益変異の頻度を測定すると、揺らぎと正の相関がみられた。さらに人為的に揺らぎを操作したRNAで同様の実験を行うと、揺らぎの増減によって有益変異の頻度も増減することがわかった。
以上の結果から、有益変異の頻度を進化の可能性とするならば、RNAの揺らぎは進化の可能性に影響を及ぼす一因であると考えられる。
P1-22
継代するだけで進化する再帰的な転写翻訳共役型DNA自己複製システムの構築
岡内 宏樹1, 市橋 伯一1,2,3
1東京大学大学院・総合文化研究科・広域科学専攻・生命環境科学系
2東京大学大学院・先進科学研究機構
3東京大学大学院・複雑系生命システム研究センター
2東京大学大学院・先進科学研究機構
3東京大学大学院・複雑系生命システム研究センター
現在確認されている全ての生物はDNAに遺伝情報をコードし、その情報をタンパク質に翻訳しながら複製し、進化することができる。人工分子システムにこの能力を持たせることが出来れば、自律的に進化していく新しい人工細胞が可能になるが、この能力を持つ人工物は未だに作られていない。最大の問題は、天然のDNA複製機構の複雑さにある。我々はDNA複製システムを1からデザインし、phi29 DNA polymeraseとCre recombinaseのたった2つのタンパク質を用いて環状DNAを再帰的に複製するDNA複製システムを改良してきた。本研究ではこれらの遺伝子を環状DNAにコードし、転写、翻訳、複製、組み換えの全ての反応を共役させることに成功した。また、この環状DNAの自己複製反応を継代することで、より高効率に自己複製を行うDNA分子を進化させることに成功した。
P1-23
RNA自己複製系を用いたRNAゲノム再編成を伴うRNA集団の進化の観察に向けて
植田健介1, 水内良2, 市橋伯一1,2,3
1東京大学大学院総合文化研究科
2東京大学先進科学研究機構
3生物普遍性研究機構
2東京大学先進科学研究機構
3生物普遍性研究機構
RNA自己複製系は、再構成型無細胞タンパク合成系、RNA複製酵素の遺伝子を持つBeta-RNAからなり、これらは油中水滴という形で封入されている。この系を希釈しながら継代すると、RNA複製酵素の複製エラーによってRNAに変異が入り、希釈によって導入された変異が選択され、生存に有利な変異体がRNA集団中で濃縮される。この系は、進化という現象を観察することができる、自然界に存在する生物集団に比べて圧倒的にシンプルな実験系である。我々の研究室では、この系を長期継代することによって、RNA集団の進化を観察し、そこから進化の一般的な性質を導き出そうとしてきた。しかし、この系で今まで見られてきたのは、点変異による進化のみで、RNAゲノムの構成が変わるような大規模な進化は観察されていない。本研究では、RNA複製の材料(CTP)を合成する酵素の遺伝子を持つNDK-RNAを加えたRNA自己複製系を用いて、Beta-RNA、NDK-RNA間の組み換えによる大規模な進化の観察を試みている。
P1-24
水陸両生魚・ポリプテルスは陸上環境でどのような変化を示すのか
木村 優希1, 中牟田 信明2, 神田 真司3, 兵藤 晋3, 二階堂 雅人1
1東京工業大学生命理工学院
2岩手大学 農学部
3東京大学 大気海洋研究所
2岩手大学 農学部
3東京大学 大気海洋研究所
約3.5億年前、陸上脊椎動物の祖先となる魚が水から離れ、陸上へ進出し始めた。本研究では肺などの陸上適応形質を残すポリプテルスを陸上で飼育し、エラ・腎臓のRNA-seq解析を行った。
まず、陸上環境下のエラでは繊毛関連遺伝子の発現量が減少していた。条鰭類のエラにおける繊毛の存在は知られていなかったが、今回SEMと免疫染色を用いてポリプテルスのエラに繊毛が存在することを初めて確認した。さらに、その繊毛が陸上環境で飼育することによって消失することを免疫染色により明らかにした。
次に、陸上環境下の腎臓では無機塩類の再吸収や酸塩基平衡の維持に関する遺伝子の発現量が増加した。加えて血漿のNa濃度と浸透圧の測定から、陸上環境下でもポリプテルスは体内の恒常性を維持していることが示された。
今回のポリプテルスの陸上飼育実験は、脊椎動物の水から陸への移行過程を理解する上で重要な知見を与えるものである。
P1-25
YouTubeチャンネル「ゆるふわ生物学」におけるサイエンスコミュニケーションの試み
黒木 健1,2, 三上 智之1,2, 栗原 沙織1, 宮本 通1,3, 迫野 貴大1,4, 田中 颯1
1ゆるふわ生物学
2東京大学大学院理学系研究科
3東京大学大学院理学系研究科附属植物園
4東京大学大学院農学生命科学研究科
2東京大学大学院理学系研究科
3東京大学大学院理学系研究科附属植物園
4東京大学大学院農学生命科学研究科
本発表では、YouTubeチャンネル「ゆるふわ生物学」におけるサイエンスコミュニケーションの取り組みについて報告する。「ゆるふわ生物学」は2020年8月に開設され、生物学に関係した動画を配信し、現在までにチャンネル登録者数約2万人を得た。メンバーの多くは生物学・関連分野で大学院に在籍または修了している。一般市民になじみ深いゲームなどの生物学的考察コンテンツに注力すると同時に、現役の研究者をゲストとして招待し、研究発表セミナー「研究者ライブ」を開催している。同時視聴者数300名から500名程度を獲得しており、リアルタイムの質問・コメントによる双方向性も確保できているため、昨今重要性の増す非対面のアウトリーチ活動として、一定の成果を上げていると示唆される。これまでの取り組みや工夫、浮かび上がってきた課題を紹介するとともに、科学と市民社会の関係の発展のために何が必要であるかを議論したい。
P1-26
宿主-寄生体ネットワークの複雑化過程とその性質:寄生体による宿主複雑化の促進
上浦六十1,2, 水内良1,2, 市橋伯一1,2
1東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系
2東京大学 先進科学研究機構
2東京大学 先進科学研究機構
生命の起源に関するいくつかの仮説では,自己複製を行う分子による再帰的な反応を生命現象の始まりだとする.この議論の中で,複製能力を持つ宿主が確率的に発生する寄生体とともに競争の中で共進化することが指摘されてきた.この現象は実験的にも示されており,宿主と寄生体がRed Queen Dynamicsを見せることが分かっている.
しかしながらこの様な競争関係では,単一の宿主および寄生体のみが同時に存在する状況を想定している.反応を我々の祖先とするならば,宿主と寄生体は複数系列に分かれるなど複雑にならなければならない.そこで本研究では,より複雑な宿主-寄生体関係が維持される条件を明らかにすることを目的とする.また,その様な複雑な関係性がどの様な性質を持つかを検証する.結果として,複雑化のために宿主-寄生体間相互作用が満足すべき条件が明らかにされた.また,寄生体の発生によって複数の宿主が維持されやすくなることが明らかにされた.
P1-27
枯草菌L-formの継代進化による増殖の高速化と変異の解析
太田 和希2, 清水 天馬4, 市橋 伯一1,2,3
1東京大学 先進科学研究機構
2東京大学大学院総合文化研究科
3生物普遍性研究機構
4大阪大学大学院生命機能研究科生命機能専攻
2東京大学大学院総合文化研究科
3生物普遍性研究機構
4大阪大学大学院生命機能研究科生命機能専攻
現在の生物はすべて精巧な細胞増殖のしくみを持っているが、原始的な細胞ではもっと単純なしくみで増えていたはずである。しかし、そのしくみは既に失われてしまっており謎に包まれている。原始的で単純な増殖プロセスの手がかりの一つとして、一部の細菌がとる細胞壁欠損状態のL-formがある。L-formは細胞壁を欠いた状態で成長分裂し、原始的な細胞の増殖モデルになりうるとされる(Errington et al., 2016)。本研究では、このL-formの研究により、原始的な細胞の増殖形態を解明することを目的としている。枯草菌(Bacillus subtilis)をL-formの形態を保ったまま進化継代を行ったところ、増殖の高速化に加え、細胞壁の合成ができなくなる等の複数の表現型の変化が起こった。この進化型L-formの全ゲノム解析により、すべての系統で共通する遺伝子の変異が複数発見された。現在、これらの変異を祖先型の枯草菌へ導入し、進化型L-formの急速な増殖に関与する要因を調査中である。