ポスターセッション3
左のパネルで演題をクリックして下さい。
P3-1
ウミウシ盗葉緑体現象は 核遺伝子の水平伝播に依存しない形質伝搬である
前田太郎1,2, 高橋俊一3, 吉田尊雄4, 有本飛鳥5,6, 長谷部光泰9, 佐藤矩行6, 丸山正4,8, 皆川純9, 小保方潤一7,10, 重信秀治9
1慶應大学
2龍谷大学
3琉球大学
4海洋研究開発機構
5広島大学
6沖縄科学技術大学院大学
7京都府立大学
8北里大学
9基礎生物学研究所
10摂南大学
2龍谷大学
3琉球大学
4海洋研究開発機構
5広島大学
6沖縄科学技術大学院大学
7京都府立大学
8北里大学
9基礎生物学研究所
10摂南大学
巻貝の仲間であるウミウシ類の一部は、餌藻類の葉緑体を細胞内に取り込み数ヶ月間光合成を行う。
一般的に、光合成に必要な遺伝子のほとんどは藻類核にコードされており、藻類から単離された葉緑体は数日しか光合成能力を維持できない。
本現象では藻類核の取り込みは観察されず、藻類核からウミウシ核への光合成遺伝子の水平伝播が起きていると考えられた。
この検証のために、我々は、本現象を示すウミウシ、チドリミドリガイ(Plakobranchus ocellatus)のゲノムを解読した。
生リードまでに及ぶ探索にもかかわらず、藻類に由来する遺伝子は全く見つからず、本現象が、核遺伝子の水平伝播に依存しない形質伝搬であることを示した。
比較オミクスの結果、タンパク質代謝に関与するウミウシ遺伝子が本現象に関与することが示唆された。
このことは、遺伝子が形質を運ぶという従来の種間の形質伝搬の考えを一部覆す可能性がある。
P3-2
ミドリイシ属サンゴの産卵時期決定の遺伝的基盤の解明にむけて
仮屋園志帆1, 井口亮2, 寺井洋平1
1総研大・先導研
2産総研・海洋環境地質研究グループ
2産総研・海洋環境地質研究グループ
サンゴ礁生態系を支える造礁サンゴの多くは、初夏の満月付近に異種間および同種内が同調して産卵する。造礁サンゴの産卵時期を決め同調させる遺伝的な基盤は未解明で、これを明らかにすれば、自然界の同調現象の1つであるサンゴの同調産卵の進化を遺伝子から研究できる。そこで遺伝的に非常に近縁だが産卵時期の異なる2種(コユビミドリイシとAcropora sp.1)に着目し、産卵に関係する遺伝子を明らかにしようとしている。この2種は遺伝的に近縁であるため、ほとんどのゲノム領域は2種間で分化はないが、産卵時期など2種間の違いに関わる領域は分化していると予想できる。コユビミドリイシには、発表者らが先行研究で取得したデータと公共データベースのデータを用い、Acropora sp.1複数個体を新たにリシークエンスした。これらのデータから一塩基多型を抽出し、分化領域を探索しており、発表ではその進捗を報告する予定である。
P3-3
隣接した生息域を持つスラウェシマカクでの遺伝的分化とgene flow
荒川那海1, Kanthi Arum Widayati2, Laurentia Henrieta Permita Sari Purba2, Xiaochan Yan3, 今井啓雄3, Bambang Suryobroto2, 寺井洋平1
1総研大・先導研
2ボゴール農科大学
3京大・霊長研
2ボゴール農科大学
3京大・霊長研
スラウェシマカクはスラウェシ島(インドネシア)に固有に生息し、形態的に異なる7種に分化している。これら7種は異所的に分布している一方で、それらの境界ではhybrid zoneが形成され、交雑個体が確認されている。これまでにスラウェシマカクにおける遺伝的分化とgene flowの程度は調べられておらず、本研究はそれらを明らかにすることを目的としている。これまでにスラウェシマカク6種(M. nigra/nigrescens/hecki/tonkeana/maurus/ochreata)のエキソーム配列を次世代シークエンスにより決定し、アカゲザル(M. mulatta)のゲノムをリファレンスとしてマッピングを行った。これらのデータからSNPsを抽出し遺伝的解析に用いた。系統解析と主成分分析から、スラウェシマカク各種の遺伝的分化が示された。またPatterson’s D/f4 statisticsにより、分布域が隣接する全てのスラウェシマカク種同士でのgene flowが検出された。以上から、スラウェシマカク各種はgene flowがありながらも種の分化を維持していると考えられ、今後その機構について探る予定である。
P3-4
遺伝子重複による貝殻基質タンパク質EGF-likeの進化
清水 啓介1, 竹内 猛2, 遠藤 一佳3, 鈴木 道生1
1東京大・院農
2沖縄技術大学院大学
3東京大・院理
2沖縄技術大学院大学
3東京大・院理
貝殻に含まれる基質タンパク質は貝殻の炭酸カルシウム結晶の形態や成長に関与する。それらは限られた系統内で非常に多様化することが知られているが、その進化プロセスに関する知見は乏しい。そこで、二枚貝アコヤガイ(Pinctada fucata)の稜柱層から同定されたEGF-likeタンパク質(EGFL)の進化プロセスに着目した。まず、アコヤガイのゲノムからEGFLと類似性の高いEGFZPを発見した。EGFLはC末端に不完全なZona pellucida(ZP)ドメインを、EGFZPは完全なZPドメインをもつタンパク質で、両者はゲノム上に並んでコードされていた。また、分子系統解析からEGFLとEGFZPは姉妹群となり、EGFLは二枚貝で進化したユニークな基質タンパク質であることが判明した。これらの結果から、二枚貝類はEGFZPの遺伝子重複によりEGFLを獲得したと示唆された。
P3-5
ヒト東アジア集団において識字障害関連遺伝子DCDC2上に見られる自然選択の痕跡について
西山久美子1,2, 颯田葉子1, 五條堀淳1
1総研大・先導研
2東海大・医
2東海大・医
識字障害関連遺伝子DCDC2上のタグSNP: rs1091047の派生型アレルは、中国での先行研究で非リスク型を示す。本研究では東アジア集団のデータを対象に、このSNPを含む連鎖不平衡領域を用いて中立性の検定を実施した。rs1091047には自然選択の痕跡が見られなかったが、領域を詳しく見ると、このタグSNPにはより若いSNP群が連鎖していることがわかった。若いSNP群を対象に中立性の検定を実施したところ、自然選択の痕跡が見られた。詳しい解析から、自然選択の標的サイトはDCDC2内にあるエンハンサー領域およびCTCF結合サイトに位置するSNPである可能性が示唆された。しかし、この標的サイトはDCDC2以外の遺伝子発現にも関わる可能性があり、その場合rs1091047の派生型アレルは、別の遺伝子の機能に働いた自然選択のヒッチハイク効果によって頻度を増したというシナリオが考えられる。
P3-6
COVID-19パンデミックにおけるファクターXの解明へのAPOBEC3遺伝子の進化学的解析からのアプローチ
藤戸尚子1, Sundaramoorthy Revathidevi1, 颯田葉子2, 井ノ上逸朗1
1国立遺伝学研究所 人類遺伝研究室
2総合研究大学院大学 先導科学研究科
2総合研究大学院大学 先導科学研究科
SARS-CoV-2パンデミックにおいて、日本を含む東アジアの国々では欧米に比べ感染者や死亡者の数は少ない。東アジアでの感染緩和の要因は「ファクターX」と呼ばれ、その実態は明らかになっていない。本研究ではファクターXの候補として、APOBEC3遺伝子群に注目した。APOBEC3はシチジン脱アミノ化酵素であり、ウイルスゲノムに突然変異を導入することでウイルスの複製を阻害し感染を防ぐ。SARS-CoV-2ゲノムには多数のAPOBEC3による攻撃痕が残されており、APOBEC3がこのウイルスからの生体防御の一端を担っていることは確実である。本研究では東アジアで高頻度(35%)を示すAPOBEC3B欠失がファクターXに寄与した可能性を検討した。集団遺伝学解析の結果、この領域では多様性維持に平衡選択が関わっている可能性が示唆された。APOBEC3B欠失のSARS-CoV2への関与の詳細を検討したい。
P3-7
シングルセルレベルで解き明かすがんの薬剤耐性の分子メカニズム
瀬戸陽介1, 藤田直也2, 片山量平1
1公益財団法人 がん研究会 がん化学療法センター 基礎研究部
2公益財団法人 がん研究会 がん化学療法センター 室長
2公益財団法人 がん研究会 がん化学療法センター 室長
肺がんは様々ながん種の中で最も死亡者数が多く、約半数は上皮成長因子受容体遺伝子(EGFR)を活性化する遺伝子変異によって引き起こされる。このような肺がん患者への治療にはEGFRを標的とした分子標的薬が劇的な治療効果をもたらしてきたが、薬剤存在下でも残存する少数の治療残存がん細胞群とそこから生じるがんの再発が大きな問題となっている。本研究では、EGFR活性化変異陽性肺がん患者由来の細胞を材料にして、シングルセルRNA-seqやシングルセルATAC-seq技術を用い、治療残存細胞が持つ薬剤耐性の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。これまでに、分子標的薬の処理により細胞集団が大きく変化することや薬剤処理時間に従って細胞分裂の頻度や抗アポトーシス応答が変化することなどが明らかとなってきた。
P3-8
standing variationによって生じたヒト集団ごとのadaptive alleleに見られる多様性
岩崎 理紗1, 颯田 葉子1
1総合研究大学院大学先導科学研究科
standing variationはヒトの遺伝的な多様性を形作る重要なメカニズムの1つである。PSCA遺伝子上で胃がん発症リスク低下と関わる2ハプロタイプ(CCA・CAG)に働く、ongoingな正の自然選択の痕跡を2D-SFSによって調べた。その結果、アフリカ集団ではCAGにのみシグナルが検出された。一方、アジア集団では、CCAのみにシグナルが検出される集団、CCA・CAGの両方に検出される集団が混在していた。また、ABC法でCCA及びCAGで自然選択が働き始めた時期を推定したところ、いずれも各集団で分集団化が進んだ時期と一致していた。更に集団の系統関係を考慮すると、自然選択の標的は歴史上何度も変化していたことが明らかになった。このことは、standing variationによって維持されていた2ハプロタイプに働く自然選択の標的が、集団ごとに比較的短い時間で変化したことを示している。
P3-9
CRISPRにターゲットされるヒト腸内メタゲノム配列の網羅的同定
杉本竜太1, 西村瑠佳1,2, Phuong Thanh Nguyen1,2, 伊東潤平3, Nicholas F. Parrish4, 森宙史5, 黒川顕5, 中岡博史6, 井ノ上逸朗1
1国立遺伝学研究所人類遺伝研究室
2国立大学法人 総合研究大学院大学
3東京大学 医科学研究所 感染症国際研究センター 感染制御系 システムウイルス学分野
4理化学研究所 生命医科学研究センター ゲノム免疫生物学理研白眉研究チーム
5国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室
6佐々木研究所 腫瘍ゲノム研究部
2国立大学法人 総合研究大学院大学
3東京大学 医科学研究所 感染症国際研究センター 感染制御系 システムウイルス学分野
4理化学研究所 生命医科学研究センター ゲノム免疫生物学理研白眉研究チーム
5国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室
6佐々木研究所 腫瘍ゲノム研究部
ウイルス発掘の研究は現在メタゲノムにおける最もホットなトピックである。集積した膨大かつ多様なウイルスゲノムは、医療への応用やウイルス進化の推定に活用されることが期待されている。既存の方法ではウイルス様タンパクに相同なタンパクをコードする遺伝子を検出することでウイルスゲノムを発掘するが、我々はタンパクに依らないCRISPRのスペーサーを用いてウイルスゲノムを検出する方法を開発した。これを用いて、ヒトの腸内メタゲノムからCRISPRによってターゲットされるおよそ一万の配列を発見した。この中には多数のテイルドファージ、Microviridae、フィラメントファージ、プラスミドそして既存の分類には属さないエレメントも含まれていた。今年度の発表では前年度に続いて解析の詳細を説明し、加えて検出されたゲノムのより詳細な解析結果を報告する。
P3-10
深海サンゴ(花虫綱)の生物発光メカニズムの比較と進化
別所-上原 学1,2
1名古屋大学高等研究院
2名古屋大学大学院理学研究科
2名古屋大学大学院理学研究科
刺胞動物花虫綱はおよそ7500種を含む多様な生物群であり、複数種で生物発光が報告されている。ウミシイタケの生物発光では、セレンテラジンとウミシイタケルシフェラーゼにより生み出されることがわかっている。一方で、ウミシイタケ以外の花虫類、特に深海棲の種における生物発光ついてはほとんど研究されておらず、生物発光の進化に関する知見は乏しい。演者は、北米モントレー湾の深海調査から得られた花虫類を用いて、発光の観察および生化学的解析を行った。その結果、新たに4種が発光能を持つことを見出した。また、生化学的解析から発光の分子メカニズムは八放サンゴ類で共通することを見出した。本研究から、八放サンゴ亜綱における発光種は、その共通祖先で発光能を獲得したことが示唆された。(Bessho-Uehara 2020, Marine Biology)
P3-11
燕尾が深いツバメほど絶滅しやすく、赤いツバメほど絶滅しにくい
長谷川克1, 新井絵美2
1石川県立大学・環境科学
2総研大・先導研
2総研大・先導研
環境変動の激しい現代において、性選択は個体群成長も個体群衰退も招きうるとされるが、この理論予測を支持する実証研究はほとんどない。本研究ではツバメ科鳥類を用いた系統種間比較により、性選択によって進化したと考えられる2つの装飾形質、燕尾と羽毛の赤さが近年の個体数増減および絶滅リスクに関係しているかどうか調べた。その結果、深い燕尾を進化させた種ほど個体数減少を示し、絶滅リスクが上昇していることがわかった。逆に、赤い羽毛については派手に進化させた種ほど個体数増加を示し、絶滅リスクが減少していた。Eco-Evolutionary Dynamics研究はこれまで性選択の普遍的効果の発見を目指してきたが、本研究が示唆するように、性選択は対象形質次第で(集団全体の)毒にも薬にもなる不均一性の高いものなのだろう。
P3-12
アブラムシの共生器官を構成する細胞の倍数性解析
野崎友成1, 重信秀治1
1基礎生物学研究所・進化ゲノミクス研究室
準備中
P3-13
動物の熱耐性は高温センサーTRPA1の温度活性から推定できるのか?
赤司寛志1, 1
1東京理科大・院先進工
温暖化する気候により生物分布の変化が報告されている。温度ストレスが生物に与える影響は当然ながら種間で一様ではないものの、温度応答の種間差を生む要因は明確ではない。温度感受性TRPチャネルの一つであるTRPA1は、動物の温度感覚を担う分子であり、動物の温度応答を理解する上で重要な候補遺伝子である。TRPA1の温度活性は種間において多様だが、そうした温度活性の進化的変化がもたらす生理学的、生態学的変化は明らかではない。本研究では、TRPA1の活性化温度と動物の温度特性(忌避体温、臨海最高体温(CTmax)、野外における平均体温(Tb))との関係を明らかにすることを目的とし、これまでに報告されたパラメータを系統一般化最小二乗法によって解析した。その結果、TRPA1の活性化温度は忌避体温と有意に相関するものの、CTmaxやTbとは相関しなかった。本講演では、温度適応機構の理解においてTRPに注目することの有用性について議論する。
P3-14
Homeobox遺伝子によって調節される共生器官の驚くべき形態変化!
JANG Seonghan1
1石神広太
2大林翼
3松浦優
4MERGAERT Peter
5菊池義智
2大林翼
3松浦優
4MERGAERT Peter
5菊池義智
昆虫を含む地球上の多くの動植物はその体内に共生細菌を持っている。これら細菌は「共生器官」の中に特異的に定着し、栄養素などの供給をすることが知られている。いくつかの共生細菌は定着に伴い共生器官の劇的な形態変化を引き起こすが、その形態変化を誘導するメカニズムは一部のモデル系を除いてほとんど知られていない。大豆の主要害虫であるホソヘリカメムシは中腸後端部に盲のうと呼ばれる袋状の組織を多数持っており、ここにバークホルデリアを単一共生細菌として保持している。バークホルデリアは環境土壌から獲得されるが、この共生細菌が腸内に定着を始めるとともに、盲のうの発達を誘導する。本研究では、腸内共生菌が引き起こす共生器官の劇的な形態学的変化においてHomeobox遺伝子であるcaudalが決定的な役割を果たすことを解明したので報告する。
P3-15
脊索の祖先的構成要素と形態形成様式の進化
安岡 有理1
1理研IMS
脊索は幼生尾の液胞化した棒状支持組織として定義され、脊索動物を特徴づける発生様式の一つである。脊索の構成要素や形態形成様式は脊索動物各系統で多様であり、その分子メカニズムや進化的起源についてはいまだ不明な点が多い。そこで私は、細胞内の液胞の膨圧と、脊索を覆う細胞外基質層(脊索鞘)の強度との釣り合いによって自己組織化されるという形態形成モデル(「液胞膨圧ー脊索鞘強度平衡モデル」)を立て、その詳細な分子メカニズムと進化的起源について研究を進めてきた。その中で、ネッタイツメガエル胚の脊索特異的に発現する硫酸転移酵素Chst3とChst6が、脊索の細胞外基質におけるケラタン硫酸の生合成に必要であることを見出した。また、ナメクジウオ胚を用いた遺伝子発現解析によって、Caveolin, Calumenin, Leprecanなどが祖先的な脊索構成要素であることが示唆された。これらの結果と文献情報をもとに、脊索の保存性と多様性について議論したい。
P3-16
蝶の前翅/後翅の進化:シロオビアゲハが前翅と後翅で異なる擬態模様を作って毒蝶に似せる仕組み
依田 真一1,2, 篠崎 颯太1, 吉岡 伸也3, 藤原 晴彦1
1東大・院新領域
2基生研・進化ゲノミクス
3東京理科大・理工
2基生研・進化ゲノミクス
3東京理科大・理工
シロオビアゲハはベイツ型擬態をする蝶としてよく知られる。シロオビアゲハでは、オスはすべて非擬態の模様を示す。メスの一部はオスのような地味な翅模様 (非擬態型) を示す一方 、残りのメスは毒蝶ベニモンアゲハに似た派手な翅模様 (擬態型) を示す。ベニモンアゲハは前翅と後翅で警告模様が大きく異なるが、擬態型メスは前翅/後翅の両方の模様を巧みに毒蝶に似せる。前翅/後翅のどちらか一方だけではなく、両方の翅をモデル種に似せることは擬態を成立させる重要な要素である。しかし、その分子発生基盤には不明な点が多い。ショウジョウバエやコクヌストモドキの研究から、昆虫の前翅/後翅の分化はホメオティック遺伝子Ultrabithoraxによって制御されることが知られる。一方、シロオビアゲハの翅模様が擬態型または非擬態型になるかは常染色体上のH 遺伝子座によって決定される。この遺伝子座には、性分化に関わるdoublesexとよばれる転写因子がコードされる。本発表ではシロオビアゲハの分子遺伝学的解析から明らかになってきた、擬態型と非擬態型の前翅/後翅における模様の違いを生み出すメカニズムについて報告する。
P3-17
発生の安定性・カナライゼーションはボディプラン形成期の保存に寄与しうる
内田 唯1, 古澤 力1,3, 入江 直樹2
1理研BDR
2東大・院・理
3東大・生物普遍性機構
2東大・院・理
3東大・生物普遍性機構
脊椎動物は多様なニッチに適応放散してきたにも関わらず、共有された解剖学的特徴(ボディプラン)を持つ。興味深いことにボディプランを形成する発生段階も種間で強く保存されるが、理由はよくわかっていない。
本研究では、ボディプラン形成期ではそもそも表現型バリエーションが生じにくい可能性に着目した。メダカ野生集団間の遺伝子発現プロファイルから遺伝的差異に対するカナライゼーションの強さを発生段階間で比較したのに加え、近交系双子胚を用いて同質の遺伝的背景下で発生プロセスの安定性も比較した。結果、強くカナライズされた発生段階・発生プロセスが安定な発生段階はいずれもボディプラン形成期と一致していた。個々の遺伝子の発現量についても、進化的保存性とカナライゼーション・安定性の相関が見られた。ここから、変異が生じる前からすでに、発生過程の内的性質が進化における保存されやすさにバイアスをかけている可能性が浮上する。
P3-18
ナメクジウオ胚とイトマキヒトデ幼生のシングルセル遺伝子発現比較
冨永 斉1
1沖縄科学技術大学院大学
脊索動物のボディプランは固有の特徴が多く、脊索や神経管といった他の分類群には見られない特徴を多く持つが、その進化的起源は、まだ多くが解明されていない。これを明らかにするには、脊索動物の初期胚と、その姉妹群である水腔動物の幼生の各組織の遺伝子発現を比較することが有効であると考えられるが、これらの材料は微小であるため、組織ごとのトランスクリプトーム解析は困難である。
そこで、本研究では基盤的な脊索動物であるヒガシナメクジウオ(Branchiostoma japonicum)と、典型的な水腔動物型の幼生を作るイトマキヒトデ(Patiria pectinifera)を用いて、シングルセルにおけるトランスクリプトーム 解析を行った。得られた細胞データをUMAPによってクラスタリングし、先行文献の発現プロファイルと比較したところ、いくつかの細胞種を比定することができた。本発表では、これらの解析結果から、脊索動物と水腔動物の発生過程の類似性を議論したい。
P3-19
共生細菌を守るマルカメムシの新規カプセルタンパク質
水野 陽太1,2, 森山 実2, 深津 武馬1,2
1東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
2国立研究開発法人産業技術総合研究所
2国立研究開発法人産業技術総合研究所
マルカメムシは、自身の成長や繁殖に必須な腸内共生細菌をカプセル状の分泌物の中に封入し、卵と共に産みつけることで次世代に伝達する特殊な生態で知られる。本研究では、カプセルのプロテオーム解析およびメスのカプセル産生器官のトランスクリプトーム解析を行い、カプセル産生に関わると思われる候補遺伝子を複数特定した。調べたマルカメムシ科4種すべてのカプセル産生器官で高発現していた2つの遺伝子に注目し、RNAi法による遺伝子発現阻害実験を行った。その結果、RNAi処理個体が産生するカプセルは内容物が減少し、形を保てなくなることに加え、内部の共生細菌が著しく膨張し、異常な形態になることが観察された。このようなカプセルを吸った幼虫は、正常なカプセルを吸った幼虫と比べて成長が著しく遅くなった。以上より、カプセル産生器官で高発現する2つの遺伝子はカプセル内における共生細菌の安定維持に関わる可能性が示唆された。
P3-20
統計学習を介する文化進化におけるベータ/ガンマ分布則
中村栄太1
1京都大学
本発表では、文化生成物データで見つかった分布則とその起源が説明可能な文化進化モデルについて報告する。文化進化のモデルでは、文化的形質の単純な複製と変異の過程を考えることが多い。一方で、音楽創作などの知的行動を特徴付ける多くの文化的形質は、統計学習を通して世代間で伝達されていることが情報学や認知科学の研究で示唆されている。本研究は、この伝達過程による形質分布の進化過程を定量的に理解することを目的とする。まず、複数の社会で作られた音楽の大規模データ解析により、音楽スタイルを特徴付ける様々な統計量の分布がベータ分布またはガンマ分布に近似的に従うことを示す。次に、統計学習に基づく伝達過程を取り入れた力学系モデルを解析して、主要な文化的親と斜行伝達の存在により、平衡状態でこれらの分布が出現することを示す。また、この理論の応用として、少量のデータからの形質分布の効率的な推定法について議論する。
P3-21
チャバネアオカメムシ共生器官を模擬したマイクロ流体デバイス(M4M)における共生細菌クラスターダイナミクスの探索
バオ チン1, 古賀 隆一2, 深津 武馬2, 若本 祐一1
1東京大学総合文化研究科
2産総研生物プロセス研究部門
2産総研生物プロセス研究部門
昆虫と細菌の共生は普遍的にみられ、共生細菌の多くは昆虫の生存・繁殖などに不可欠である。チャバネアオカメムシも消化管後端の集積盲嚢からなる共生器官(M4)をもち、そこに定着する共生細菌が日本全域で6種類(Sym A〜F)同定されている。これら共生細菌はM4内でバイオフィルムのようなクラスターを形成する。共生細菌の集団構造の形成原理および共生器官の構造と共生細菌の時空間ダイナミクスの関係を明らかにするため、M4を模した空間形状をもつマイクロ流体デバイス(M4M)を構築し、1細胞レベルからバイオフィルム形成までの全プロセスをタイムラプス計測した。その結果、栄養・流速が一定でホストの生理的影響がない条件下で、各細菌株に特異的なクラスター形成動態を明らかにした。これらの結果を元にメソスケール(クラスター/バイオフィルム)レベルで初めて顕在化する集団ダイナミクスの特徴を議論する。