海洋島は地球上でその島だけにしか見られない固有種が数多くいることから“進化の実験場”とも呼ばれ、多くの進化生物学者を魅了してきた。小笠原諸島は日本を代表する海洋島で、自生する維管束植物の約4割にあたる140種が固有種であると考えられている。単位面積当たりの固有種数はハワイ諸島やガラパゴス諸島を遥かに凌ぎ、世界の海洋島の中でも最大級である。ところが、小笠原諸島の植物の多様性がどのように進化してきたのかについては、依然多くの謎に包まれている。
この講演では、小笠原諸島の森林の主要構成樹種である固有種モンテンボクの起源と進化に関する研究を紹介する。遺伝情報を用いた系統解析により、モンテンボクは熱帯・亜熱帯を中心に広大な分布域を持つ海流散布植物オオハマボウから分化したことが示された。また、モンテンボクは諸島内の島間で大きな遺伝的・形態的な差異が見られ、種子の海流散布能力が著しく低下していることも明らかとなった。海洋島でたびたび観察されるこのような種子散布様式の変化が、固有種の進化に果たしたであろう役割についても紹介したい。